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〈第五十話 移動する沼〉

 


 二十一階層と通路を隔てる城門の通路側に、見知った顔が三人立っていた。



 レンは私たちの顔を見るなり、駆け寄って来ると、挨拶より先に「俺もついて行く」と告げた。



 レンがここにいるのは、まだ分かる。当事者だからね。だけど、どうして、この二人がいるのか全く分からない。



「おはようございます。ムツキ様」

「おはよう、ムツキ」



 タイプの違う、爽やかイケメンの笑顔。



「……おはようございます」

「朝から貴女に会えて、俺は幸せです」



(私は幸せとは思わないけど)



「今朝も、良い毛艶だ」



(シュリナに毛はないし)



 熱い目で見詰められ、サス君たちは若干引き気味だ。出来れば、朝から関わりたくない濃い人たちだけど、そんなことは言ってられない。



「どうして、兵士の方々が、ここにいらっしゃるのでしょうか?」

 顔を引きつらせながら、私は尋ねる。



「非番なので、ムツキ様のお手伝いが出来ればと思いまして」



(何故、敬語?)



「俺も非番で暇を持て余していたからな。だから、ちょうどよかった」



(だから、何が?)



 爽やかな笑顔を早朝から振り撒きながら、自分なりの理由を述べる二人に、私は頭が痛くなる。昨晩、お酒を飲んでないのに。大袈裟に溜め息をつくと、私はきっぱりと断る。



「いえ、手伝いは結構です。私たちは大丈夫なので、安心して休んで下さい」と。



 レンの腕をやや乱暴に掴んで、二人の前を抜けていく。その後ろをミレイが、小さめのリュックを背負いついてくる。サス君たちは、私の横を陣取り、急ぎ足で城門を潜った。



「それじゃ、レン。プロテクトとマジックバリア掛けとくね」



 二十一階層は一段と危険だと、昨晩聞いたからね。何が起きるか分からないし。他の皆は勿論通路の手前で、すでに掛けてある。それでも危険だから、移動している時は、サス君に結界を張ってもらった。相変わらず、サス君の負担が大きいのが、どうしても気になる。一応、魔石に私の魔力を吸収させてあるけどね。



「レン。危ないから、一緒に来なくてよかったんだよ。地図もあるんだし」



 ミレイが来たことがあるのは、二十階層までだった。それから先は、地図とコンパスが頼りになる。



「地図は役にたたない。沼地は常に移動するから」

「「沼地が移動するの(ですか)!?」」



 私とミレイの声がハモる。レンはコクッと頷くと答える。



「何故かは、分からないが」と。



「知りませんでした……」



 このダンジョンの道案内を自負しているミレイにとって、攻略された階層のことを、訪れたことがなくても、把握出来てなかったことに、内心、かなりショックを受けていた。今は、そっとしとこ。



 目の前には草原地帯が広がっている。視線の先には、森が見えた。この景色を見る限り、沼地があるとは想像しにくい。だが、この景色のどこかに、沼地があるのだ。ましてや、その沼地が移動する? 探しだすのに、かなりの時間が掛かるだろう。



(あまり、時間掛けたくないんだけどなぁ……)



 心の中で溜め息混じりに呟く。

 


 タイムリミットがある旅をしているのに……



「よく知ってるね」

 気分が沈んでいる私の隣で、ココがレンに話し掛けていた。



「水脈を追えば、場所は分かる」

「水脈を追う……君は、気脈を感じることが出来るんだね」



 ココの問い掛けに、レンは小さく頷く。



(気脈?)



 初めて聞いた言葉だ。私は黙ってココとレンの会話に耳をすませる。



「俺だけじゃない。ダンもデンも感じることが出来る。俺たちは地脈や水脈などの気脈の力を取り込み、魔石と練り合わせたのを材料に使う」



(なるほど……。だから、レンたちは地脈や水脈を感じとることが出来るのか。にしても、気脈のエネルギーを感じ取り、取り込むなんて、凄い技術だよね!)



 改めて、ダンさんたちの、いや、ドワーフの凄さを私は知る。



「だから、持ち手を選ぶ。生半可な能力しかない持ち手が持てば、反対に喰われてしまう」



(ーー!! 喰われてしまう!?)



 レンの言葉に、私はギョッとし、思わずレンを見下ろす。でも、何に喰われてしまうの。



「……何に?」



 そう問う私の言葉が意外だったのか、レンは顔を歪める。もしかして、知らなかったのか。誰も教えなかったのか。妖精猫は知っていたのに。昨夜の会話を思い出しながら、レンは答える。



「決まっている。俺たちが作った、防具や武器、装備品だ。……安心しろ。使えない者に売りはしない」と。



 商談成立しているから、私は使えるようだ。でも、今装備しているアーマーやダガーの材料に、その魔石が使われてることを知って、黙り混む私。答えたレンも黙り混む。何ともいえない空気が立ち込める中、ココが口を開く。



「話はそれたけど、それで、沼はどこにあるんだい?」と。



 レンは立ち止まり片膝を付くと、右手を地面に添える。意識を集中させた。水脈が流れていくのが見える。流れていく方向は……



「この方角に水脈が流れていて、集まっているのが分かる」

 森の方角を指差すと、レンは力強く答えた。



「皆様。行く方向が分かったことですし、休憩致しましょう」



 ようやく復活し、様子を伺っていたミレイは、キリがいいところでそう切り出す。これから先は、激しい戦いになる。休める時に休んでおくべきだ。



 ミレイはリュックから魔石を四個取り出し、二メートル四方に置いた。これで簡易のセーブポイントの出来上がりだ。十九階層ほどしっかりとしたものではないが、そこそこの強度の結界は張れる。もしもの時のことを考えて、ミレイは用意していたのだ。



 因みに、結界が張れるのは、魔石が壊れるまで。効能が弱くなってきたら、魔力を足せば、また以前の強度で使えるようになる。



「そうーー」

 だね。と言う前に、被さるような声がした。



「賛成!!」

「俺たちの分は、余り物でいいから」



 そう声を掛けてきたのは、城門で置いてきた、非番の二人だった。





 お待たせしました。


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪



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