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アズ・ユー・ライク  作者: あおあん
後編

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17/34

17,私とたっちゃん

たっちゃんが行ってしまってから間もなく電気は復旧した。


私はこのまま駐車場で待つ。


だって、たっちゃんが『ここで待ってて』と言ったから。


たっちゃんと出会えて、本当に幸せ。


いつも私に気を遣ってくれて、別にそんなに丁寧に扱わなくても大丈夫なのにって思うけど、ふふっ、まあ、ちょっと前までの私はあんなだったし、仕方ないか。


助手席に座ってたっちゃんの戻りを待つ。


なんか、最初からこんな感じだよな。


あの日のことを思い出す……


あのスケッチブックは捨てたんだ。


もう何もかも嫌になって、絵を描くのも見るのもやめようって思って、私はスケッチブックを投げ捨てた。


だけどやっぱりちょっと後悔して、もし、まだ落ちていたら、また描いてもいいかも、なんて未練がましい自分にうんざりしながら歩いてたんだ。


そして、たっちゃんのメモを拾った。


どうでもいい、ゴミみたいなスケッチブックを保管してくれてるというので、『捨ててもいい』と言うつもりで電話をかけた。


『マリエだろ?』


そう言われて全身に鳥肌が立った。


どうして私の名前を?


私は作品に名前を残してはいけなかったから、私の描いた絵は会社のものであって、私のものではなかったから、スケッチブックを拾ってくれた人が、私の名を呼んでくれたことが嬉しかった。


どんな人なのか会ってみたいと思った。


そして一目見た瞬間から心が惹かれた。


たっちゃんはぶっきら棒なようで、いつも私のやりたいようにさせてくれたし、私の作品を私の名前とともに愛してくれた。


それは生きる自信をなくしていた私の力となった。


たっちゃんがいないと駄目だ。


私にはたっちゃんが必要だ。


そう思ってたから、プロポーズされた時は本当に嬉しかった。


まさか、たっちゃんも私と同じ気持ちでいてくれたなんて。


もし神様がいるとしたら、どれだけ感謝しても足りない。


「はぁ~、早く戻ってこないかなぁ」


救急車と消防車のサイレンが近くで聞こえた。


なんだかちょっと怖くなって、たっちゃんに電話してみる。


応答がないのは忙しいからだよね……私は目を瞑って、その場で少し眠った。






ブーブーブー


お腹に置いていたスマホのバイブで目が覚めた。


「はい……」


知らない携帯番号からだった。


『南原達夫さんの奥様でよろしいでしょうか』


「はい」


初めて『奥様』なんて呼ばれて嬉しいはずなのに、素直に喜べない雰囲気の声だった。


『ご主人が事故で病院に運ばれました』


頭が真っ白になった。


たっちゃんが……なんて?……事故……?


混乱する頭を横に振って、私はスマホに耳を押し当てた。


『市内の中央病院ですが、すぐに来られますか?』


「はい……」


車を降りてタクシーを捕まえた。


病院に着くと、たっちゃんと同じ制服を着た人が何人もいた。


「南原さん、こちらです」


暗い顔をした男性は、自分を『こたけ』と名乗った。


「お休みの日にすみませんでした。近くで地滑りがあり、電柱が倒れ停電が起きました。先輩がたまたま電話をくれて、現場に来るというので、俺が先輩の作業着を持って行きました」


たっちゃんは生きてるんだよね?


「あの……どこにいるんですか?会えませんか?」


「先輩は土砂に巻き込まれた時に打ち所が悪くて……もしかすると……家族を呼んだ方がいいって医者に言われて……」


嘘でしょ、冗談だって言ってよ。


さっきまで一緒にいたんだよ?


信じられない気持ちのまま、背もたれのない長椅子の前まで案内された。


『手術中』とランプの付いた部屋の前で、私は誕生日を迎えた。






たっちゃんが手術室から出て来たのは、明け方だった。


傷だらけで、困ったような表情をしたまま眠っているたっちゃんの手を握った。


「絶対に動かさないでくださいね」


看護師にそう言われ、私は頷いた。


「他に会わせたい方がいましたら、今のうちに連絡をされるといいですよ」


まるで、たっちゃんが助からないみたいな言い方をしないでほしい。


お世話になった看護師ではあるけど、むっとした。


たっちゃんに家族はいないと聞いている。


私しかいない、たっちゃんには私しかいない、そして私にもたっちゃんしかいないの。


お願い目を覚まして。


どうか助かって。


お願いだから。


涙で視界がゆらゆらと揺れる中、たっちゃんの瞼が動いた。


たっちゃんが目を覚ました!


「先生!目を覚ましました!先生!」


私はありったけの声で叫んだ。


ばたばたといろんな人がやって来て、部屋から追い出されてしまった。


よかった。


たっちゃんは目を覚ましたんだ。


ほっとして体の力が抜けた。


私はそのまま待合室の椅子で意識を失った。






目を覚ますと、小竹さんが心配そうに私を見ていた。


「たっちゃんは……?」


「まだ寝てるみたいっす」


そう。生きていてよかった。


「小竹さん、お家に帰られました?新婚なんでしょう?たっちゃんから聞きました」


「へぇ、先輩、奥さんには何でも話すんですね」


「そうなのかな。若いのに優秀なんだって言ってましたよ。あと、すごく感謝してるって」


「感謝っすか?」


「はい。俺みたいな冷めた奴らばかりの中で、小竹は明るくて積極的でいい奴なんだって、たっちゃん、小竹さんのこと大好きですよ」


「俺には万里江、万里江ってそればっかっす。先輩は奥さんのことめちゃめちゃ好きっす」


「ふふふ、嬉しい。もうここは大丈夫だから、小竹さんはお家に帰って?奥さんが心配してるでしょう?」


「あざっす。もう少ししたら、帰らせてもらうっす」


突然、たっちゃんの部屋の方が慌ただしくなる。


嫌な予感がして私も行ってみる。


「南原さんのご家族の方ですね?」


「はい……」


忙しいはずなのに、私だけ中に通してもらえた。


「そばにいて声をかけてあげてください」


なんか、それって……


「たっちゃん?」


苦しそうに息をしているたっちゃんに、どんな言葉をかけろって言うの?


「たっちゃん、頑張って、私を一人にしないで」


ほんの少し目を開けて、何かしゃべろうとしている。


「なに?どうしたの?なにが言いたいの?」


顔を近付けて、たっちゃんの口の動きを読んだ。


「お、誕生日なのに、ごめん……な」


「いいの!そんなのどうでもいいから!死なないで!たっちゃん!」


たっちゃんに繋がれていた心臓の波形が一直線になってしまった。


たっちゃんの首に縋りつき、一生懸命揺さぶる。


「たっちゃん!たっちゃん!」


私が力いっぱい揺すっても動かない……


「いやー!やめて!たっちゃん!わあああぁぁぁ」


私の悲鳴が廊下に響き渡った。






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