第9話 新しい朝を迎えました。
――そして翌朝。
「リア様、お目覚めください」
優しい声が聞こえて、リアはゆっくりと目を開けた。
見慣れない天井。
白を基調とした広い部屋。
そして――
「……あ」
昨日の出来事が、一気に頭の中へ蘇ってきた。
異世界。
魔法。
王子様。
そして、王宮。
「……夢じゃなかったんだ」
リアは、ぽつりと呟いた。
「よく眠れましたか?お着替えをお持ちしました」
リアは慌ててベッドから降りた。
「おはようございます。ナタリーさん。よく眠れました! あの、このドレスを着るんですか?」
淡いピンク色の可愛らしいドレスが置いてある。
「はい、こちらになります。その後、朝食になりますので、お着替えが終わったら声をかけてください」
日本ではドレスなんて着た事がないので緊張とワクワクした気持ちになった。
「わかりました」
ドレスに着替えたリアは、朝食のため部屋に案内された。
部屋には、すでにルシアスとノアがいた。
「おはようございます」
リアが挨拶をすると、二人がこちらを振り向く。
「おはよう」
ルシアスが短く答えた。
「おはようございます、リア殿」
ノアも軽く笑って挨拶をする。
テーブルの上には、いくつもの料理が並んでいた。
「わぁ……」
リアは思わず声を漏らした。
パンに卵料理、色とりどりの野菜。
見たことのない料理もいくつかある。
「朝からすごいですね……」
「王宮の朝食は、いつもこのくらいだ」
ルシアスが答える。
「そうなんですか?」
リアは目を輝かせた。
勧められるまま、リアは焼きたてのパンを一口かじる。
「……おいしい!」
外は香ばしく、中はふんわりとしていて、思わず笑みがこぼれた。
スープも温かく、優しい味が体に染み渡る。
そんなリアの様子を、ルシアスは何も言わず静かに見ていた。
朝食を終えると、リアは満足そうに息を吐いた。
「ごちそうさまでした」
リアが手を合わせる。
「改めて紹介しよう」
ルシアスが口を開いた。
「彼は、私の側近であり、身の回りの世話を任せているセバスだ」
「お初にお目にかかります。セバスと申します」
白髪の紳士が、丁寧に頭を下げた。
「リアです。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。リア様」
セバスは穏やかに微笑んだ。
しかし、その視線は一瞬だけルシアスへ向けられる。
(……女性を連れている。)
しかも、殿下自ら。
セバスは長年、ルシアスに仕えてきた。
当然、ルシアスが女性に興味を示さないことも知っている。
だからこそ、目の前の光景には驚きを隠せなかった。
(……これは、もしかすると。)
「セバス」
「はい」
「何を考えている」
「いえ。何も」
セバスは、にこやかに答えた。
けれど、その目はどこか嬉しそうだった。
「……まあいい」
ルシアスはそう言うと、立ち上がった。
「昨日の魔法陣について、調べたいことがある」
「魔法陣ですか?」
「ああ。魔法研究室に行く」
「魔法研究室……?」
リアは聞き慣れない言葉を繰り返した。
「はい。王宮には魔法を研究している者たちがいるんですよ」
ノアが、リアの隣で説明する。
リアは少し身を乗り出した。
「私も行っていいんですか?」
「当然だ。お前のことなのだからな」
「ありがとうございます!」
リアが嬉しそうに笑うと、ルシアスは小さく息をついた。
「研究室へ向かう途中で、王宮の中も案内しておく」
「えっ?」
リアは目を瞬かせた。
「ルシアスさんが案内してくれるんですか?」
「……何か問題があるか?」
「いえ! ただ、王子様って忙しそうなので……」
「今日は特に予定がない」
短くそう答えるルシアス。
「そうなんですね!」
リアはほっとしたように笑った。
「よろしくお願いします!」
リアは嬉しそうに頷いた。
その隣で、ノアが小さく笑う。
「殿下が自ら案内してくださるなんて、よかったですね」
「ノア」
「はい?」
「余計なことを言うな」
「すみません、殿下」
ノアはそう言いながらも、まったく反省していないように笑っていた。
リアは二人のやり取りを見て、思わず笑みを浮かべる。
「では、行くぞ」
「はい!」
リアはルシアスの後を追って、部屋を出た。
王宮の廊下は、どこまでも続いているように見えた。
白い壁には美しい絵画が飾られ、窓からは柔らかな朝の光が差し込んでいる。
「すごい……」
リアは、きょろきょろと辺りを見回した。
「王宮って、こんなに広いんですね」
「迷うなよ」
「はい!」
「……返事だけはいいな」
「ちゃんと覚えます!」
リアはそう言いながら、周囲を見渡した。
けれど、似たような廊下がいくつも続いていて、すでに少し不安になってくる。
「……あの」
「何だ?」
「これ、覚えられるでしょうか?」
「何が?」
「道です」
「……」
ルシアスはリアを見た。
「一度で覚える必要はない」
「よかった……」
リアはほっと息を吐いた。
「では、まず庭園へ行く」
「庭園?」
「ああ。王宮の中でも広い場所だ」
「楽しみです!」
リアの顔がぱっと明るくなる。
その様子を見て、ルシアスは一瞬だけ目を細めた。
そして、歩く速度をほんの少しだけ緩めた。
リアが遅れずについてこられるように。




