第62話 リア、どうか生きてーー
ここ数日、リアは不思議な夢を繰り返し見ていた。
――最初の夢は、暖かな陽射しが差し込む部屋だった。
「リア、こっちへいらっしゃい」
優しい声に呼ばれ、幼い少女が嬉しそうに駆けていく。
その先には、一人の女性がいた。
少女を抱きとめた女性は、愛おしそうにその頭を撫でる。
「ふふ、そんなに急いだら転んでしまうわ」
「だいじょうぶ!」
二人の楽しそうな笑い声が、部屋に響いた。
――次の日の夢。
今度は、長い廊下だった。
幼い少女は、あの女性と手を繋ぎながら並んで歩いている。
大きな窓から陽の光が差し込み、床を明るく照らしていた。
「おかあさま!」
「なあに?」
少女が何かを話すたび、女性は優しく笑っている。
その光景を見ていると、なぜか胸の奥が温かくなった。
そして――その日の夜。
夢の中の景色は、これまでとはまるで違っていた。
あの楽しそうな笑い声は、もう聞こえない。
慌ただしく廊下を行き交う人々。
遠くから響く、何かが崩れ落ちるような轟音。
窓の外では、黒い煙が空へと立ち上っていた。
「急いで!」
「王女様を安全な場所へ!」
誰かの声が響く。
幼い少女の手を引き、あの女性が廊下を走っていた。
「おかあさま……?」
「大丈夫よ。お母様が必ず守るから」
けれど、その声は微かに震えている。
――ドォンッ!!
城が大きく揺れ、天井の一部が崩れ落ちた。
少女は怯えたように女性へしがみつく。
やがて辿り着いた部屋の中央には、大きな魔法陣が描かれていた。
「おかあさまも、いっしょ……?」
女性は答えない。
ただ、幼い少女を強く抱きしめた。
そして――ゆっくりと、少女の身体を離した。
「リア」
女性の瞳から、涙が零れ落ちた。
「リア、どうか生きて――」
魔法陣が眩い光を放つ。
「おかあさま――!」
少女が必死に手を伸ばす。
けれど、その手が届くことはなく――。
「――っ!」
リアは勢いよく目を開けた。
「…………夢?」
暗い部屋の中、荒くなった呼吸を整えながら、リアはゆっくりと身体を起こす。
ここ数日、毎晩のように夢に現れる幼い少女。
そして、いつもそのそばにいる女性。
どちらも知らないはずなのに、なぜかずっと懐かしいと感じていた。
けれど、今夜の夢で聞いたあの声を――リアは知っている。
「……あの時の、声……」
この世界へ来た、あの日。
魔法陣の光に包まれる直前に聞こえた声と、同じだった。
「……お母さん?」
リアは無意識に、そう呟いていた。
けれど、どうしてそんな言葉が口から出たのか、自分でも分からなかった。
夢の中の女性は、見覚えのない人だった。
それなのに――。
(……どうして、こんなに懐かしいんだろう)
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
まるで、ずっと忘れていた大切な何かを思い出しかけているようだった。
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皆さまに少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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