第61話 リアはリアだ
「まあ、親同士が決めたものだけどね。それに、その王女はもう……」
そこまで言って、カインは口を閉ざした。
一瞬だけ、その表情に影が落ちる。
しかし、すぐに何事もなかったかのように笑みを浮かべた。
「まあ、今の俺にはリアがいるからね」
「…………」
ルシアスの眉間の皺が、さらに深くなる。
「なるほどねぇ……」
オスカーが考え込むように顎へ手を添える。
「ゼルスが知りたかったのは、リアちゃんが光と闇、二つの属性を持っているかどうかだったのかもしれないね」
「……どういうことですか?」
「ゼルスは長年、アスタリアにスパイを送り込んでいた。なら、王女が光と闇、二つの属性を持っていたことを知っていてもおかしくない」
「……!」
「そしてリアちゃんは、アヴェリオスで光魔法を使ったところをゼルスの人間に見られた可能性がある」
オスカーは僅かに目を細める。
「でも、光魔法だけじゃ王女本人だとは断定できない。だから連れ去って、もう一つの属性――闇魔法を使えるか確かめたんじゃないかな」
「つまり……」
ノアの表情が険しくなる。
「ゼルス王国は、リア殿がアストリア王国の王女なのか確かめるために……?」
「――ちょっと待って」
カインが声を上げる。
「……今、なんて言った?」
先ほどまでの余裕のある表情は消えていた。
「リアが……アストリアの王女?」
「あくまで可能性の話ですがねぇ」
オスカーがそう答えると、カインは言葉を失う。
「…………」
光と闇。
年齢も同じくらい。
そして、十一年前に姿を消した王女。
カインの中でも、それまで別々だった二人の存在が重なっていく。
「……嘘だろ」
思わず、そんな言葉が零れた。
幼い頃、何度か会った少女。
親同士が決めた婚約で、当時のカインにはその意味すらよく分かっていなかった。
そして、アストリア王国の滅亡とともに、もう二度と会うことはないと思っていた。
それなのに――。
もし、本当にリアがあの王女なのだとしたら。
(俺が好きになったのは……あのときの王女だったのか?)
何も知らなかった。
彼女の本当の身分も、過去も。
それでもカインは、リアに惹かれた。
偶然なのか、それとも――。
「…………」
カインは何とも言えない表情で俯く。
そんな中、ルシアスが静かに口を開いた。
「……リアが何者であろうと関係ない」
カインが顔を上げる。
「アストリアの王女だろうと、そうでなかろうと――リアはリアだ」
ルシアスの灰色の瞳に、迷いはなかった。
「……まずは、リアを取り戻す。それだけだ」




