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帰りたいのに、帰してくれません。  作者: 希。


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第56話 ……空気悪っ!

「王妃様が、私を……?」


 突然の呼び出しに、リアは目を丸くした。


「はい。すぐにお越しいただくようにと」


「……」


 リアは思わずヴァンを見る。


「なんで俺を見るんだよ」


「だって、ヴァンさんのお母さんですよね?」


「そうだけど」


「どんな人なんですか?」


「……めんどくせぇ人」


「息子がそんなこと言っていいんですか!?」


「事実だからいいんだよ」


「よくないですよ!」


 ヴァンは面倒そうに立ち上がる。


「ほら、行くぞ」


「え? ヴァンさんも来るんですか?」


「当たり前だろ。お前一人で行かせられるか」


「……?」


「なんだよ」


「いえ。意外と優しいんだなって」


「はぁ!? そんなんじゃねぇよ!」


 ヴァンはリアから顔を逸らすと、そのままさっさと歩き出した。


「置いてくぞ!」


「あ、待ってください!」


 * * *


 コン、コン。


「連れてきました」


「どうぞ」


 扉を開け、ヴァンとリアが部屋の中へ入る。


 そこには、一人の女性が椅子に腰掛けていた。


 美しく整った顔立ち。


 けれど、その佇まいにはどこか冷たさがあり、ただ座っているだけなのに近寄りがたい雰囲気をまとっている。


(……この人が、ヴァンさんのお母さん)


 リアが緊張しながら見つめていると、女性の視線がゆっくりとこちらへ向けられた。


「あなたが、リアね」


「は、はい。一ノ瀬リアです」


「そう」


 王妃はリアをじっと見つめる。


「……なるほど」


「……?」


 まるで何かを確かめるような視線に、リアは思わず背筋を伸ばした。


「ヴァンを助けてくれたそうね。母として礼を言います」


 王妃は微笑んでいた。


 けれど、その瞳は笑っていないように感じた。


「い、いえ、そんな!」


 思っていたよりも穏やかな言葉に、リアは少しだけほっとする。


 しかし――。


「闇魔法も、使えるのですね」


「……え?」


 突然そのことを口にされ、リアは驚いたように目を瞬かせる。


「えっと……今日初めて出たので、使えるって言っていいのか分からないんですけど……」


「……そう」


 王妃は何かを考え込むように、静かに目を細めた。

 

「…………」


「…………」


 その時。


「……母上」


 ヴァンが低い声で呼ぶ。


「何かしら?」


「……こいつが闇魔法を使えるって分かった。それで、どうすんだよ」


「…………」


「確かめたかったんだろ?」


 王妃はヴァンへ視線を向ける。


「ええ。そうね」


「だったら――」


「ヴァン」


 王妃は静かに遮った。


「あなたには関係のないことです」


「……は?」


 二人の間に、ぴりっとした空気が流れる。


(……空気悪っ!)


 リアはそっと視線を逸らした。


「今日はもう下がっていいわ」


「チッ……」


 ヴァンは不機嫌そうに舌打ちをする。


(えっ!? 私、なんで呼ばれたの? お礼のため!?)


 リアが困惑している間にも、ヴァンはさっさと扉へ向かって歩き出す。


「行くぞ、リア」


「あ、はい!」


 慌ててその後を追いかけながら、リアはちらりと王妃を振り返る。


 王妃は変わらず、静かな笑みを浮かべていた。


(……やっぱり、よく分からない人だな)


 そう思いながら、リアはヴァンとともに部屋を後にした。


 パタン――。


 扉が閉まる。


「…………」


 静かになった部屋で、王妃はゆっくりとティーカップへ手を伸ばした。


 その口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


「……間違いなさそうね」


最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!

皆さまに少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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