第55話 どういたしまして!
あれから程なくして、襲ってきた男たちはヴァン側の兵士たちに捕らえられた。
「……」
「……」
ヴァンとリアは部屋へ戻ったものの、その間、二人とも一言も口を開かなかった。
部屋に入ると、ヴァンがその沈黙を破るように、ぽつりと呟く。
「……なんで俺のこと助けたりしたんだよ」
「え?」
「俺、お前を攫ったんだぞ」
「……そうですけど」
「だったら普通、助けねぇだろ」
リアは不思議そうに首を傾げる。
「だって、危なかったじゃないですか」
「……は?」
「目の前で危ない目に遭ってたら、助けるの普通じゃないですか?」
「…………」
ヴァンは言葉を失った。
「それに、ヴァンさんが私を攫ったことと、助けることは別です」
「……意味分かんねぇ」
「なんでですか!」
「分かんねぇもんは分かんねぇよ!」
「もう! 助けてもらったんだから、素直にありがとうって言えばいいじゃないですか!」
「なっ……!」
ヴァンの眉がぴくりと動く。
「誰が言うか!」
「じゃあ助けなきゃよかった!」
「お前なぁ!」
いつものような言い合いが始まる。
けれど、ヴァンの脳裏には先ほどの光景が焼きついていた。
自分へ向かって放たれた氷の矢。
その前に、迷うことなく飛び出したリア。
(……変なやつ)
ヴァンは小さく息を吐く。
「……ありがとな」
「え?」
「だから! 助けてくれて……ありがとなって言ったんだよ!」
「……!」
リアは目を丸くしたあと、ふっと笑った。
「どういたしまして!」
「……なんでそんな嬉しそうなんだよ」
「だって、ヴァンさんもちゃんとお礼言えるんだなって」
「お前、俺をなんだと思ってんだよ!」
「俺様王子?」
「ぶっ飛ばすぞ!」
「助けてあげた人に言うことじゃないですよ!」
「うるせぇ!」
一方――。
王宮の一室では、王妃が先ほどの騒動について報告を受けていた。
「襲撃者はすべて捕らえたとのことです」
「そう」
「ヴァン殿下にも、お怪我はございません」
「……そう。それならよかったわ」
王妃は静かに紅茶のカップを置く。
「それと、もう一つご報告が」
「何かしら」
「ヴァン殿下と共にいた、リアという少女についてです」
王妃の視線が、ゆっくりと男へ向けられる。
「……続けなさい」
「襲撃の際、あの少女が魔法を発現させました」
「魔法?」
「はい。それが――」
男が一瞬、言葉を詰まらせる。
「闇魔法だったとのことです」
「…………」
王妃の表情が止まる。
「間違いないの?」
「目撃した兵士が複数おります」
「……そう」
王妃は再びカップへ手を伸ばした。
そして――。
「……やっと見つけたわ」
その口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
「リアという少女をここへ連れて来なさい」
王妃は静かに男へ命じた。
「御意」




