第53話 早く会いたい。
――それから数日が経った。
相変わらず、リアがエルディアへ帰れる気配はない。
そしてなぜかヴァンは、毎日のようにリアの部屋へやって来るようになっていた。
「おい、暇だろ」
「暇ですけど、ノックしてください」
「細けぇな」
「普通です!」
そんなやり取りも、すでに何度目か分からない。
最初こそリアも警戒していたが、毎日のように顔を合わせているうちに、ヴァンが思っていたほど怖い人ではないことも分かってきた。
口は悪いし、態度も大きい。
けれど、話してみると意外と子どもっぽいところもある。
それに、何だかんだ言いながらも、リアの話を聞いてくれるのだ。
「ヴァンさん、ちゃんとご飯食べてます?」
「は? なんだよ急に」
「昨日、お昼ほとんど食べてなかったじゃないですか」
「別に腹減ってなかっただけだ」
「ダメですよ。ちゃんと食べないと」
「うるせぇな。俺の勝手だろ」
「あと、ちゃんと寝てます?」
「お前は俺の母親か!」
「だって目の下、ちょっと疲れてますよ?」
「……」
「夜更かししてるんじゃないですか?」
「……してねぇよ」
「ほんとですか?」
「……ちょっとだけだ」
「してるじゃないですか!」
そんなことを繰り返しているうちに――。
「ヴァンさん、今日お昼は?」
「……食った」
「ちゃんと?」
「ちゃんと食った!」
「昨日は何時に寝ました?」
「……いつもより早く寝た」
「えらいです!」
「子ども扱いすんな!」
文句を言いながらも、ヴァンはいつの間にかリアの言うことを聞くようになっていた。
その日の夜。
一人になったリアは、エルディア王国のみんなのことを考えていた。
ノアさん。
ナタリーさん。
オスカーさん。
(……みんな、今ごろどうしてるんだろう)
きっと心配している。
それに――。
(ルシアスさん……心配してるかな)
ふと、建国祭の夜を思い出した。
時計塔から見た、魔法の花火。
そして、あの時ルシアスに言われた言葉。
『お前が無事なら問題ない』
「……」
(早く会いたい……)
そう思った瞬間、リアは自分の気持ちに引っかかった。
(……会いたい?)
もちろん、みんなに会いたい。
ナタリーにも、ノアにも、オスカーにも。
でも――。
今、一番に顔が浮かんだのはルシアスだった。
声が聞きたい。
顔が見たい。
もう一度、あの人のそばにいたい。
「……あれ?」
胸の奥が、きゅっと苦しくなる。
(なんで……こんなにルシアスさんに会いたいんだろう)
もちろん、みんなに会いたい。
でも、ルシアスのことを考えると、胸の奥が落ち着かなくなる。
ルシアスに見つめられると、妙に緊張したこと。
手を取られた時、胸が高鳴ったこと。
建国祭の夜、あの言葉がずっと心に残っていたこと。
(……もしかして)
リアは胸元にそっと手を当てた。
「……そっか」
(私……ルシアスさんのこと、好きなんだ)
そう気づいた途端、顔が一気に熱くなった。
「……えっ、私、ルシアスさんが好きなの!?」
思わず声に出してしまい、リアは慌てて口元を押さえた。
ようやく気づいたその気持ちに、リアの頬がじわりと熱くなった。
そんな穏やかな日々が続く一方で――。
ゼルス王宮では、第一王子クロノスを支持する者たちが、密かに動き始めていた。
夜。
人気のない一室に、数人の男たちが集まっていた。
「……これ以上、第二王子派を好きにさせておくわけにはいかない」
「最近では、王妃殿下の動きも活発になっている」
「例の少女のことか?」
「ああ。第二王子派が連れてきたという娘だ」
その場にいた一人が、声を潜める。
「アストリア王国に関係する者だという噂もある」
「もしそれが事実なら……第二王子殿下の立場は、ますます強くなる」
「ただでさえ王妃殿下の後ろ盾があるというのに、他国とのつながりまで得られては厄介だ」
室内に重い沈黙が落ちた。
「……手を打つなら、今しかあるまい」
「それで、明日の件は?」
「問題ない。すでに手筈は整っている」
「城内の者には?」
「話を通してある」
「そうか」
男は満足そうに頷いた。
「なら、予定通り進める」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
そして翌日――。
ゼルス王宮を揺るがす事件が、幕を開けることになる。
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