第49話 なんなんだよ、あの女!
リアのいる部屋を出たヴァンは、苛立ったように廊下を歩いていた。
「……なんなんだよ、あの女」
王子だと名乗っても態度を変えるどころか、平然と言い返してくる。
これまでヴァンの周囲にいた者たちとは、まるで違っていた。
「……ムカつく」
そう吐き捨てた、その時だった。
「随分と面白い客人を連れてきたそうだね、ヴァン」
聞き慣れた声に、ヴァンの足が止まる。
「……兄貴」
廊下の先に立っていたのは、ゼルス王国第一王子――クロノス。ヴァンの腹違いの兄だった。
国王と愛妾の間に生まれた第一王子クロノスと、正妃を母に持つ第二王子ヴァン。
ゼルス王国では現在、次期国王を巡って二人を支持する貴族たちが対立していた。
もっとも――ヴァン自身は、その争いにさほど興味を持っていない。
「……兄貴には関係ねぇだろ」
「そう警戒するな。私はただ、弟が何をしているのか気になっただけだよ」
クロノスは穏やかに微笑む。
ヴァンは露骨に顔をしかめた。
「……あんた、その笑い方やめた方がいいぜ」
「なぜ?」
「気持ち悪ぃから」
「相変わらず可愛げのない弟だ」
そう言いながらも、クロノスの笑みは崩れない。
「それで――」
クロノスの視線が、ヴァンが出てきた部屋の扉へ向けられる。
「彼女が、例の少女か」
「……だったらなんだよ」
「いや。ただ少し、興味があってね」
その言葉に、ヴァンの眉がわずかに動いた。
「余計なことすんなよ」
「もちろん。それより最近、城内が騒がしいな」
「……兄貴の連中だろ。ほっとけ」
ヴァンは、ため息を吐く。
「そうもいかないだろう。私を支持する者も、お前を支持する者も、随分と熱くなっているようだからね」
「勝手にやらせとけよ。俺は王位なんか興味ねぇ」
「お前にその気がなくても、周りはそう思ってくれないさ」
「……知るかよ」
クロノスは小さく笑う。
「まあ、せいぜい気をつけることだ」
「兄貴に言われなくても分かってる」
「そうか」
クロノスは穏やかな笑みを浮かべたまま、ヴァンの横を通り過ぎる。
「安心しろ。私は何もしないさ」
その背中を、ヴァンはじっと睨みつけた。
「……信用できるかよ」
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