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帰りたいのに、帰してくれません。  作者: 希。


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第48話 私も苦手です!

 ――ゼルス王国。


「……ん」


 リアは、ゆっくりと目を開けた。


「……どこ、ここ」


 目の前に広がる見知らぬ部屋を、リアは呆然と見回した。


「やっと起きたか……」


「……え?」


 すぐ近くから聞こえた声に、リアはゆっくりと顔を向ける。


 そこには、見知らぬ男がいた。


 しかも――近い。


「きゃあああっ!?」


「うわっ! なんだよ!」


 リアは反射的に飛び起きると、男から距離を取った。


「だ、誰ですか!?」


「起きていきなり叫ぶな! ここをどこだと思ってる!」


「叫びますよ! 知らない人がこんな近くにいたら!」


「人を不審者みたいに言うな!」


「不審者ですよ!」


「はぁ!?」


 男の眉がぴくりと跳ね上がる。


 身にまとっているのは、仕立てのよい衣服。どこか気品も感じられる。

 けれど、リアにとっては、見知らぬ部屋にいた不審な男でしかなかった。

 

「お前、俺が誰か分かってんのかよ」


「……初めましてですよね?」


「そういうことじゃねぇ!」


「えっ?」


「……まあいい。お前が俺を知らねぇのも当然か」


 男は苛立ったように髪をかき上げる。


「俺はヴァン。ゼルス王国の第二王子だ」

 

「……王子?」


「ああ。第二王子だ」


 ヴァンは胸を張り、当然のように名乗った。


 普通なら、その身分を聞けば誰もが態度を改める。けれどリアは、数秒彼を見つめたあと、まったく別の言葉を口にした。


「私を元の場所に帰してください!」


「話を聞いていたのか!?」


「聞いてました! 王子様なんですよね? だったら帰せますよね!」


「そういう意味じゃねぇよ!」


 ヴァンは思わず声を荒らげた。


 王子である自分が名乗ったというのに、敬意を示すどころか、まるで便利な案内役のように扱われている。


「お前は帰さねぇ」


「なんでですか!」


「俺がそう決めたからだよ!」


 ヴァンは腕を組み、いかにも王子らしい尊大な態度で言い放った。


「ここでは俺の言葉が絶対だ。お前がどこの誰だろうと、俺の許可なく帰ることは許さねぇ」


「なんでヴァンさんが決めるんですか!」


「俺が王子だからだ!」


「関係ないです!」


「あるだろ!」


「ありません!」


「……っ、お前、本当に俺が王子だって分かってんのか!?」


「分かってます! でも、王子様だからって何をしてもいいわけじゃないですよね?」


「……は?」


「私は勝手にここへ連れてこられたんですよ。せめて理由くらい説明してください」


 ヴァンの眉がわずかに動いた。


 先ほどまで勢いよく言い返していたリアだったが、その瞳には警戒の色が浮かんでいる。


「……理由、ねぇ」


 ヴァンはリアを上から下まで眺めた。


「な、なんですか」


「別に」


「じゃあ、そんなに見ないでください」


「俺の勝手だろ」


「嫌です」


「……お前、ほんっと俺に遠慮ねぇな」


「だって、ヴァンさんのこと知らないですし」


「普通は知らない相手が王子だったら遠慮するんだよ!」


「そうなんですか?」


「そうなんだよ!」


 ヴァンは苛立たしげに舌打ちする。


 それから、改めてリアを見た。


「……一ノ瀬リア」


「!」


 突然フルネームを呼ばれ、リアの表情が変わる。


「どうして、私の名前を……」


「お前については調べさせてもらった」


「調べた……?」


「ああ」


 ヴァンは口元に笑みを浮かべる。


「出自不明。突然エルディア王国に現れて、第一王子の庇護を受けている」


「……」


「そのうえ、光魔法まで使えるらしいな」


 リアの顔から、先ほどまでの勢いが消えた。


「どうして、それを……」


「言っただろ。調べたって」


 ヴァンは当然のように答える。


「だから、お前をここへ連れてきた」


「……どういうことですか?」


「お前について、確かめなきゃならねぇことがあるんだよ」

 

「確かめたいこと?」


「ああ」


 ヴァンはリアを真っ直ぐ見つめた。


「お前が――本当は何者なのか」


「……え?」


 リアは目を見開いた。


「私が……何者って……」


「そのままの意味だ」


「私は、一ノ瀬リアですけど……」


「そういうこと聞いてんじゃねぇよ」


「じゃあ、どういうことですか?」


「……」


 ヴァンの眉間に皺が寄る。


「お前、もうちょっと察するってことできねぇの?」


「ちゃんと説明してくれないと分かりません!」


「ったく……」


 ヴァンは面倒そうに息を吐いた。


 けれど、その目はリアから離れない。


 ヴァンは、目の前の少女をじっと見つめた。

 

 調べれば調べるほど、妙な少女だった。


 突然エルディアに現れた、出自不明の少女。


 光魔法を使い、年齢も条件に合う。


 そして何より――。


「まあいい。いずれ分かる」


「私は今知りたいんですけど!」


「うるせぇな」


「ヴァンさんが説明してくれないからじゃないですか!」


「俺にそんな口きく奴、初めて見たぞ」


「今はそんな話してません!」


「……ほんっと、変な女」


「失礼ですね!」


 ヴァンは不満そうに睨むリアを見て、小さく鼻で笑った。


 少なくとも――退屈はしなさそうだ。


「しばらくここにいろ」


「嫌です」


「即答すんな!」


「嫌なものは嫌です!」


「……やっぱムカつくな、お前」


「私もヴァンさん苦手です!」


「な……!」


 今度こそ、ヴァンの顔が引きつった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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