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帰りたいのに、帰してくれません。  作者: 希。


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第44話 発動しません。

 アヴェリオス王国を出発してから、四日目――。


 長い馬車の旅を終え、リアたちは無事にエルディア王国へと戻ってきた。


「帰ってきたぁ……!」


 部屋に入ると、リアはほっと息を吐く。


 見慣れた家具に、ふかふかのベッド。

 

 久しぶりの自室に、自然と頬が緩む。


「明日はオスカー様のところへ行く予定です。魔法について詳しく調べたいと伺っております」


「あ、そうでした……」


 リアは、アヴェリオスで怪我をした男性の腕に触れたときのことを思い出す。


「今日は長旅でお疲れでしょうから、ゆっくりお休みください」


「はい!」


 こうして、アヴェリオス王国での数日間を終え、リアは久しぶりの自室でゆっくりと休むことになった。


 翌日――。


 朝食を済ませたリアは、オスカーの研究室を訪れていた。


「まずは、アヴェリオスで起きたことを再現してみようか」


 そう言って、オスカーは一本の枯れた花を机の上に置いた。


「最初は、植物の再生からやってみよう」


「はい!」


 リアは枯れた花へ手を伸ばす。


「今回は、ただ触れるだけじゃなくて、自分で魔力を流すことを意識してみて」


「魔力を流す……」


「そう。訓練したことを思い出してごらん」


 リアは小さく頷き、花にそっと触れた。


 目を閉じ、自分の中にある魔力へ意識を向ける。


 以前は、集めるだけでも難しかった魔力。


 けれど今は、その感覚が少しずつ分かる。


 集めた魔力を手のひらへと移動させ、そのまま花へ流すように意識する。


 すると――。


 淡い光が、リアの手のひらから溢れ出した。


「……!」


 萎れていた茎がゆっくりと起き上がり、枯れていた花びらにも鮮やかさが戻っていく。


「できた……!」


 リアはぱっと顔を輝かせた。


「うん。ちゃんと自分の意思で発動できたね」


「はい!」


 オスカーの言葉に、リアは嬉しそうに頷いた。


 以前は無意識に発動していた魔法を、自分の意思で使うことができた。


 少しずつではあるが、訓練の成果が出ている。


「じゃあ次は――」


 オスカーの視線が、すっとノアへ向いた。


「人の傷でも同じようにできるか、試してみようか」


「……先生」


 嫌な予感がしたのか、ノアが眉を寄せる。


「ノア君、今朝の訓練で腕を怪我しただろう?」


「……見ていたんですか?」


「たまたまね」


 リアはノアの手を見る。


「ノアさん、怪我してるんですか?」


「大したものではありませんよ」


「見せてください!」


「え?」


 リアがすぐにノアへ近づく。


 その勢いに押されるように、ノアは小さく息を吐いて手を差し出した。


「うわぁ、痛そうですね」


 リアはノアの腕にできた擦り傷を覗き込み、そっと手を添える。


「……っ」


 触れられたところへ、思わず意識が向く。


 治癒魔法の検証だということは分かっている。


 分かっているのだが――。


(……近い)


 すぐそばにあるリアの顔を見て、ノアはそっと視線を逸らした。


(……落ち着け、俺)


 小さく息を吐き、気持ちを切り替える。


「お嬢さん、今度は魔力の量も意識してみようか」


「わかりました」


 リアはノアの腕から一度手を離すと、傷の上にそっと手をかざした。


 先ほどの花よりも、少ない魔力を意識する。


 体の中にある魔力をゆっくりと集め、手のひらへ。


 そして、傷へ流すように意識すると――。


 淡い光が、リアの手のひらに灯った。


「あ……!」


 光がノアの腕を優しく包み込む。


 やがて光が消えると、そこにあった傷も綺麗に消えていた。


「治った……!」


 リアはぱっと顔を輝かせる。


「ノアさん、どうですか? 痛くないですか?」


「はい。もう大丈夫です」


 ノアは傷のあった場所を確かめるように見つめた。


「すごいですね……跡も残っていない」


「よかったぁ……!」


「うん。魔力量の調整もうまくできているね」


 オスカーは満足そうに頷いた。


「訓練の成果がちゃんと出てるよ」


「本当ですか?」


「ああ。以前は無意識に発動していたけど、今は自分の意思で魔力を集めて、量まで調整できている」


「やった!」


 リアは嬉しそうに笑った。


「じゃあ――次は闇魔法を試してみようか」


 オスカーはそう言うと、大きな的を用意した。


「闇魔法は攻撃系のものが多い。まずは、この的に向かって魔力を放ってみてくれ」


「はい!」


 リアは的へ向けて手のひらをかざす。


 先ほどと同じように、自分の中にある魔力へ意識を向けた。


 魔力を集め、手のひらへと集中させる。


「えいっ!」


 ――しかし。


「…………」


 何も起こらない。


「あれ?」


 リアは自分の手のひらを見つめた。


「もう一回やってみます!」


 再び魔力を集め、今度は先ほどよりも強く意識する。


「えいっ!」


「…………」


 やはり、何も起こらない。


「……おかしいですね」


「うーん……」


 オスカーは腕を組み、考え込む。


「魔力そのものは、ちゃんと集められているんだけどねぇ」


「じゃあ、なんで出ないんでしょう?」


「それが分かれば苦労しないんだけどね」


「そんなぁ……」


 リアはがっくりと肩を落とした。


 その後も、魔力量を変えたり、意識の仕方を変えたりしながら何度か試してみた。


 けれど――。


 闇魔法が発動することは、一度もなかった。


 その日の夜。


 リアは窓辺に腰掛け、ぼんやりと外を眺めていた。


 エルディア王国へ戻ってきて、どこかほっとしている自分がいる。


「……帰ってきた、か」


 ぽつりと呟いて、リアは少しだけ目を伏せた。


 ここは、本当の家じゃない。


 自分が帰りたい場所は――日本だ。


「唯ちゃん……どうしてるかな」


 突然いなくなった自分を、きっと心配している。


 学校のみんなはどうしているだろう。


 今頃、日本ではどれくらい時間が経っているのだろうか。


「帰る方法……まだ、何も分かってないんだよね」


 魔法の訓練をして、アヴェリオス王国へ行って。


 毎日いろいろなことが起きて、いつの間にか目の前のことで精一杯になっていた。


 けれど、帰りたいという気持ちがなくなったわけではない。


「……帰りたいな」


 リアは膝を抱え、窓の外を見つめた。


 そのとき、ふと頭に浮かんだのは――。


 ルシアスやノア、ナタリーたちの顔だった。


「…………」


 日本へ帰りたい。


 それなのに、この世界で過ごす時間も、少しずつ楽しいと思うようになっている。


「……なんか、変なの」


 リアは小さく呟いた。


 日本へ帰る方法が見つかったら、きっと迷わず帰る。

 

 そう思っていたはずなのに――。

 

「…………」

 

 リアは窓の外へ視線を戻した。

 

 胸の奥に生まれた小さな戸惑いの正体を、まだ自分でもうまく説明できなかった。

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