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帰りたいのに、帰してくれません。  作者: 希。


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第42話 お返しです!

 その後も舞踏会は華やかな賑わいを見せた。


 結局、怪しい人物が見つかることもなく、舞踏会は何事もなく終了した。


 リアはナタリーとともに会場を後にしようとする。


 そのとき、ふと何かを思い出したように足を止めた。


「あっ、そうだ」


「どうされました?」


「この間買った万年筆、ルシアスさんに渡そうと思って持ってきてたんです」


 そう言って辺りを見回したリアの目に、開かれた大きな窓が映る。


 その先にあるバルコニーに、人影があった。


「あ……」


 月明かりの下に立つ銀色の髪を見て、リアはすぐにその人物が誰なのか分かった。


「ルシアスさんだ」


 リアがそちらへ向かおうとすると、ナタリーが小さく微笑む。


「私はこちらでお待ちしております」


「え? 一緒に来ないんですか?」


「はい。ここからでしたら、お二人の様子を覗け……リア様のお姿も見えますので」


「……え、覗く?」


「なんでもありません」


「……?」


「では、いってらっしゃいませ!」


 なぜか嬉しそうなナタリーに見送られ、リアは首を傾げながらバルコニーへと向かった。


 バルコニーに出ると、夜の涼しい風が頬を撫でた。


 会場から漏れる柔らかな明かりの中、ルシアスは手すりのそばに立ち、静かに夜空を眺めている。


「ルシアスさん」


 声をかけると、ルシアスがゆっくりと振り返った。


「リア?」


「こんなところにいたんですね」


「ああ。少し風に当たっていた」


「舞踏会、疲れました?」


「……多少はな」


「やっぱり。ずっと挨拶してましたもんね」


 リアがくすっと笑うと、ルシアスは小さく息を吐いた。


「お前は?」


「私ですか? 私は楽しかったです!」


「そうか」


「はい。ダンスもちゃんと踊れましたし!」


 得意げに笑うリアを見て、ルシアスの表情がわずかに緩む。


 そのとき、リアは本来の目的を思い出した。


「あっ、そうだ!」


「どうした?」


「あの、ルシアスさんに渡したいものがあるんです」


「俺に?」


「はい!」


 リアは手にしていた小さな包みを、ルシアスへ差し出した。


「この前、王都で買ったんです。どうぞ!」


 リアは少し緊張しながら、包みを差し出した。

 

 気に入ってもらえるだろうか。

 

 そんなことを考えていると、ルシアスが少し意外そうに包みを見つめた。


「……開けても?」


「もちろんです!」


 包みを開くと、中から一本の万年筆が姿を現した。


「万年筆か」


「はい。この前、髪飾りをいただいたので、そのお返しです」


 ルシアスは万年筆を手に取り、静かに眺める。


「……俺のために選んだのか?」


「はい! ルシアスさんに似合いそうだなって思って」


「…………」


 ルシアスは手の中の万年筆へ視線を落とした。


 贈り物を受け取ること自体は、これまでにも何度もあった。


 王子という立場上、贈られる品は決して珍しいものではない。


 けれど――。


 リアが自分のために選んだ。


 その事実が、なぜか胸の奥にじんわりと広がっていく。

 

 たった一本の万年筆だというのに、妙に嬉しい。

 

「……ルシアスさん?」


 返事がないことを不思議に思ったのか、リアが顔を覗き込む。


「気に入りませんでした?」


「いや」


 ルシアスはすぐに否定した。


「そうではない」


 もう一度、手の中の万年筆を見る。


 この気持ちをどう言葉にすればいいのか、自分でもよく分からなかった。


「……ありがとう。大切に使う」

 

「ふふ、よかった!」

 

 リアは嬉しそうに微笑んだ。

 

 その笑顔を見た瞬間、ルシアスの胸の奥がまたわずかに温かくなる。


 今日一日、何度も感じたこの感覚。


 理由は、まだ分からない。


 ただ――。


 手の中の万年筆だけは、なぜかひどく大切なものに思えた。

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