第39話 ナタリーさんが1番張り切ってます。
オスカーたちと別れ、リアが部屋へ戻ると――。
「リア様、お待ちしておりました!」
ナタリーは、いつになく気合いに満ちた表情でリアを迎えた。
「……ナタリーさん?」
「さあ、リア様。舞踏会の準備を始めましょう!」
「えっ、もうですか?」
「ええ! せっかくの舞踏会ですから!」
舞踏会が始まるのは夜だ。
まだ時間はたっぷりあるはずなのだが――。
「まずは湯浴みです!」
「湯浴み?」
「はい! 今日は髪もお肌も、いつも以上に念入りにお手入れしますからね」
「そ、そんなに?」
「当然です!」
即答だった。
どうやら今日のナタリーは、いつにも増して気合いが入っているらしい。
「湯浴みが終わったら、用意したドレスを合わせましょう。アクセサリーと髪型も決めなくてはいけませんし、それから――」
「ちょ、ちょっと待って!」
次々と挙げられる予定に、リアは慌ててナタリーを止めた。
「……舞踏会って、こんなに大変なんですね」
「もちろんです!」
リアは早くも、少しだけ疲れた気がした。
それから、あれよあれよという間に時間は過ぎていき――。
「リア様! とてもお綺麗です!」
すべての支度を終えたリアを前に、ナタリーは感動したようにぱちぱちと手を叩いた。
「そ、そうかな?」
リアは少し照れながら、鏡に映る自分を見つめる。
身に纏っているのは、淡いアイスブルーのドレス。
光を受けるたび、繊細に施された銀糸の刺繍がきらきらと輝いている。
髪は上半分を後ろでふんわりとまとめたハーフシニヨンにし、残した髪は柔らかなウェーブを描いて背中へ流れていた。
仕上げに、小さな銀の髪飾りが添えられている。
「なんだか……自分じゃないみたい」
「何をおっしゃいますか。どこからどう見てもリア様ですよ!」
「そういう意味じゃなくて……」
リアは困ったように笑いながら、もう一度鏡の中の自分を見つめた。
そして――。
舞踏会の時間が近づいた頃、部屋の扉を叩く音が響いた。
「リア様、お迎えがいらっしゃいましたよ」
「迎え?」
ナタリーが扉を開ける。
その先に立っていたのは、正装に身を包んだルシアスだった。
「ルシアスさん!」
「ああ」
リアの姿を見たルシアスが、一瞬だけ動きを止める。
「……?」
「ルシアスさん、どうかしました?」
「いや」
短く答えたあと、ルシアスは改めてリアを見つめた。
「……よく似合っている」
「えっ」
「そのドレスだ」
「あ、ありがとうございます……!」
不意に褒められ、リアは少し照れながらドレスの裾へ視線を落とした。
「行くぞ」
「はい!」
ルシアスがリアへ手を差し出す。
リアはその手を取り、ルシアスにエスコートされながら舞踏会の会場へと向かった。
その後ろ姿を見送りながら、ナタリーは満足そうに微笑む。
(……ああ、なんてお似合いのお二人なのでしょう!)
どうやら、今日一番舞踏会を楽しみにしていたのは、ナタリーだったのかもしれない。




