第38話 光魔法だったのかな?
ベッドに入ったリアは、今日一日の出来事をぼんやりと思い返していた。
魔法対戦で起きた事故。
観客席へ降り注いだ水魔法。
そして、自分を守るように現れたルシアスの氷の壁。
(……ルシアスさん)
あのとき、ルシアスは真っ先に自分の名前を呼んだ。
その声を思い出し――ふと、別のことが頭をよぎる。
(そういえば……)
リアは布団の中からそっと手を出し、自分の手のひらを見つめた。
昼間、廊下でぶつかった男性。
彼の腕に触れた瞬間、手のひらから光が溢れ、傷が綺麗に消えた。
(あれ……やっぱり光魔法だったのかな)
以前、オスカーから自分には光魔法の適性があると聞いていた。
けれど、人の傷を治したのは初めてだった。
以前、花を再生させたことはあるものの、それ以来、光魔法らしい力が発動することはなかった。
(明日、オスカーさんたちに聞いてみよう)
そんなことを考えているうちに、次第に瞼が重くなっていく。
やがてリアは、そのまま静かに眠りについた。
翌朝――。
朝食を済ませたリアは、オスカーとノアのもとを訪れていた。
「そういえば、昨日ちょっと変なことがあって……」
「変なこと?」
ノアが聞き返す。
「はい。お手洗いから戻る途中で、男の人とぶつかったんです」
「……男?」
ノアは思わず聞き返した。
見知らぬ男とリアがぶつかった。
ただそれだけのことなのに、なぜか胸の奥がざわつく。
「はい。それで、その人の腕に傷があって。私がぶつかったせいだと思って、腕に触れたら――」
「触れた?」
今度は、思わず身を乗り出してしまう。
知らない男の腕に、リアが触れた。
その事実に、胸の奥のざわつきがさらに大きくなった。
「ノア君、そこじゃないだろ」
オスカーがやれやれと肩をすくめる。
「……分かってます」
ノアは小さく息を吐いた。
昨日、あれだけの事件が起きたばかりなのだ。
些細なことでも見過ごすわけにはいかない。
今は、余計なことを考えている場合ではない。
「それで?」
オスカーが続きを促す。
「急に手から光が出て……傷が綺麗に消えたんです」
「…………」
今度はオスカーが固まった。
「傷が、消えた?」
「はい。跡も残らず……」
「お嬢さん、それ詳しく聞かせてくれるかい!」
オスカーが勢いよく身を乗り出す。
「えっ?」
「傷はどの程度だった? 魔法を使おうと意識したのかい? 治るまでどれくらいかかった? それから、触れた瞬間に発動したのか、それとも――」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
矢継ぎ早に質問され、リアは思わず身を引いた。
「先生、近いです」
ノアがオスカーの肩を掴み、リアから引き離す。
「ちょっと、ノア君。今のは重要な話だよ」
「近すぎます」
「そこ?」
「はい」
「傷を一瞬で治したんだぞ?」
「それと距離は関係ありません」
「だったら別に近くてもいいだろう?」
「よくありません」
「なんで?」
「近いからです」
「だから、そこ?」
二人のやり取りを、リアは不思議そうに見つめる。
「……何の話してるんですか?」
「なんでもないよ」
「なんでもありません」
二人の声がぴたりと重なった。
「……?」
リアはますます分からなくなり、首を傾げた。
「……それでリア殿。その男について、もう少し詳しく聞かせて下さい」
先ほどまでとは打って変わり、ノアが真剣な表情になる。
「どんな男だったか、覚えていますか?」
「えっと……四十代くらいの人で、短い髪の……細身の男性でした」
「服装は?」
「確か、護衛の方と同じような格好をしてました」
「護衛……?」
「はい。アヴェリオス王国の護衛の方たちと、同じ服だったと思います」
その言葉に、ノアの表情がわずかに険しくなる。
「……間違いありませんか?」
「たぶん……。でも、一瞬だったので」
「そうですか……」
ノアは何かを考えるように黙り込んだ。
「お嬢さん、傷が消えたのは光魔法によるものだろうねぇ。今すぐにでも詳しく調べたいところだけど、生憎ここは他国だからね」
オスカーが残念そうに息を吐く。
「詳しく調べるのは、エルディア王国に帰ってからにしよう」
「分かりました」
リアは素直に頷いた。




