第37話 不穏な動きがありそうです。
夕食を済ませたリアは、ナタリーとともに部屋へ向かっていた。
「皆さん、まだ戻ってきてないんですか?」
リアがナタリーに尋ねる。
「そうですね。まだ――」
そのとき、廊下の向こうから見慣れた二人が歩いてきた。
「あっ!」
銀髪のルシアスと、その隣を歩くノアだった。
「ルシアスさん! ノアさん!」
リアはぱっと表情を明るくし、二人のもとへ駆け寄った。
「おかえりなさい! 二人とも大丈夫でしたか?」
「ああ。問題ない」
「俺も大丈夫ですよ」
二人の無事な姿を見て、リアはほっと息をついた。
「よかった……ずっと心配してたんです」
「リア」
ほっとしているリアに、ルシアスが静かに声をかける。
「少し話がある」
「……話、ですか?」
「ああ。今日の魔法対戦についてだ」
いつもと変わらない口調だったが、その表情はどこか険しい。
「分かりました」
ルシアスに促され、リアとナタリーは二人のあとについていく。
しばらく歩いたところで、一つの部屋へと案内された。
扉を開けると――
「やあ、リア」
「あっ、カインさん!」
部屋の中には、すでにカインが待っていた。
「カインさんも無事だったんですね」
「もちろん。心配してくれた?」
「はい! 皆さんがなかなか戻ってこないので、心配してました」
「それは嬉しいな」
いつもの柔らかな笑みを浮かべるカインに、リアもほっとする。
けれど、そんな和やかな空気は長くは続かなかった。
「カイン」
ルシアスの低い声に、カインの表情がすっと引き締まる。
「ああ。分かってる」
その変化に、リアも自然と背筋を伸ばした。
どうやら、ただの報告ではないらしい。
「リア。今日の件だが、あれはただの事故ではない」
ルシアスの言葉に、リアはきょとんと目を瞬かせた。
「え……?」
「防御魔法陣に、人為的に手を加えた痕跡が見つかった」
一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
けれど、それが意味することに気づき、リアは息を呑む。
「それって……誰かがわざと?」
「ああ」
ルシアスが静かに頷く。
先ほどまでの穏やかな空気が消え、部屋の中に緊張が走った。
「じゃあ、明日の舞踏会は中止ですか……?」
「いや、予定通り行う」
「えっ!?」
予想外の答えに、リアは思わず声を上げた。
「でも、誰かが魔法陣に細工したんですよね? 危なくないんですか?」
「だからこそ、だよ」
そう答えたのはカインだった。
先ほどまで浮かべていた柔らかな笑みは、もうない。
「舞踏会には、今日の魔法対戦に参加した各国の王族や関係者も出席する予定なんだ。もし犯人がその中にいるなら、何食わぬ顔で現れるかもしれない」
「犯人……」
「もちろん、すでに王都を離れている可能性もあるけどね」
カインはそこで一度言葉を切った。
「でも、こちらが細工に気づいたことは、まだ公にはしていない」
「あ……」
リアにも、ようやく彼らの考えが見えてくる。
「表向きは、魔法陣の不具合ということになっている」
ルシアスが続ける。
「つまり犯人は、自分の仕業だと気づかれていないと思っているかもしれない」
「そういうことです」
ノアが静かに頷いた。
「明日の舞踏会を予定通り開催すれば、犯人やその関係者が姿を現す可能性があります」
リアは三人の顔を順番に見つめた。
「リア、安心してよ。警備体制はいつも以上に厳重にしてあるから。もちろん、犯人に悟られないようにね」
カインは、不安そうな表情を浮かべるリアを安心させるように微笑んだ。
「そうなんですね」
「念のため、明日の舞踏会では俺たちから離れないように」
ルシアスがリアへ視線を向ける。
「なるべく一人で行動するな。お前には護衛もつける」
「護衛……ですか?」
「ああ。今日の件もある。用心するに越したことはない」
真剣な表情で告げるルシアスに、リアは素直に頷いた。
「分かりました。なるべく一人にならないようにします」
「なるべく、ではなく絶対にだ」
「えっ」
「一人になる必要があるときは、ナタリーか護衛を連れて行け」
「は、はい……!」
思った以上に念を押され、リアは少しだけ目を丸くした。
「まあ、俺もそれには賛成かな」
カインもリアへ視線を向ける。
「何かあってからじゃ遅いからね」
「俺も同意見です」
ノアも真剣な表情で頷いた。
三人から揃って念を押され、リアは困ったように笑う。
「分かりました。ちゃんと気をつけます」
華やかな舞踏会。
昨日までは、ただそれだけだと思っていた。
けれど――どうやら明日は、それだけでは済まないらしい。
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