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帰りたいのに、帰してくれません。  作者: 希。


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第36話 トラブルが発生しました。

 やがて、試合開始の合図が響く。


 先に仕掛けたのはセドリックだった。


 勢いよく放たれた水魔法を、ルシアスは目の前に氷の壁を作り出し、難なく防ぐ。


 そして片手を上げると、無数の氷の槍が宙に現れた。


 ルシアスがその手を振り下ろす。


 次の瞬間、氷の槍が一斉にセドリックへと降り注いだ。


「すごい……」


 リアは思わず呟き、ルシアスの戦いに魅入っていた。


 セドリックも水の壁を作り、なんとか氷の槍を防ぐ。


 そのまま二人の魔法がぶつかり合い、会場から大きな歓声が上がった。


 そして――


 セドリックが再び大きく腕を振るう。


 大量の水が渦を巻き、勢いよくルシアスへと放たれた。


 ルシアスがそれをかわした、その瞬間――


 水の塊が、そのまま対戦場の外へと飛んでいく。


 本来なら、観客席を守る防御魔法陣によって防がれるはずだった。


 しかし――


 バチッ――!


「……え?」


 防御壁の一部に、亀裂が走った。


 次の瞬間――


 ウゥ――ッ!


 低く響く警告音が、会場内に鳴り響く。


「な、何……?」


 突然のことに、リアは辺りを見回した。


 観客席もざわめき始める。


「防御魔法陣に異常発生!」


 係員の一人が声を張り上げた。


「直ちに試合を中止せよ! 観客を避難させろ!」


 その瞬間――


 ピシッ!


 防御壁に走っていた亀裂が、一気に広がった。


「……っ!」


 次の瞬間、防御壁の一部が砕け散る。


 行き場を失ったセドリックの水魔法が制御を失い、無数の水の粒となって宙へ舞い上がった。

 

 魔力を帯びた水は鋭い針のような形へと変わり、観客席へ向かって降り注ぐ。

 

「きゃあああっ!」


 悲鳴が響き渡る。


 その先にいるリアの姿を捉えた瞬間、ルシアスの表情が変わった。


「リア!」


「えっ――」


 ルシアスが勢いよく片手を振り上げる。


 リアたちの目の前に巨大な氷の壁が現れた。


 鋭い水の雨が、激しい音を立てながら次々と氷壁へ突き刺さる。

 

「……ルシアスさん」


 リアは目の前にそびえる氷壁を見つめたまま、小さく呟いた。


「リア様、逃げましょう!」


 ナタリーがリアの手を掴み、立ち上がらせる。


「……っ、はい!」


 二人は急いで観客席を離れ、避難する人々の流れに加わった。


 周囲では悲鳴や怒号が飛び交い、係員たちが必死に観客を誘導している。


「押さないでください! 順番に出口へ!」


「こちらです! 急いで!」


 リアはナタリーに手を引かれながら、一度だけ後ろを振り返った。


 対戦場には、まだルシアスの姿がある。


(ルシアスさん……)


 心配だった。


 けれど今は、自分たちがここから離れることが先だ。


 リアは前を向き直り、ナタリーとともに会場をあとにした。


 競技場から少し離れた広場へ案内され、しばらく待機していると、係員の声が響いた。


「皆様にお知らせいたします。先ほど、防御魔法陣に異常が確認されました。現在、原因については調査中です」


 その言葉に、周囲がざわめき始める。


「魔法陣に異常って……」


「大丈夫なのか?」


 不安そうな声があちこちから聞こえてくる。


 やがて、係員が再び口を開いた。


「安全が確認できないため、本日の魔法対戦は中止といたします」


「中止……」


 リアは呟きながら、競技場へと視線を向けた。


 ルシアスたちは、まだ中にいる。


「みんな、大丈夫かな……」


 リアは心配そうに、競技場のある方向を見つめた。


「大丈夫ですよ! 皆様お強いですから」


 ナタリーは安心させるように微笑んだ。


 しばらくすると、広場に王宮から迎えの馬車が到着した。


 リアとナタリーは馬車に乗り込み、ひと足先に王宮へと戻っていった。

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