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帰りたいのに、帰してくれません。  作者: 希。


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第35話 試合が始まりました。

「間に合った……!」


 観客席に戻ったリアは、一息ついて席に腰を下ろした。


「次はいよいよ、ノア様の出番ですよ」


 ナタリーが会場を指差し、リアもそちらへ目を向け

る。


「エルディア王国より、護衛騎士ノア! 対するは――ソルニア王国、護衛騎士ゼノ!」

 

「ノア殿ー! 今日も頼みますよ!」


「騎士の意地、見せてくれー!」


「負けんなよ、ノアー!」


 あちこちから飛び交う声援に、リアは目を丸くした。


「すごい……ノアさん、男性に人気なんですね」


「ええ。騎士の方々から、とても慕われているんですよ」


 声援に応えるように、ノアが片手を上げる。


 すると、さらに大きな歓声が上がった。


「ノアー! 絶対勝てよー!」


「……なんだかすごいですね」


 リアがくすくすと笑っていると、ノアがこちらに気づいた。


 目が合った瞬間、ノアは少し驚いたような顔をしたあと、リアに向かって微笑む。


「頑張ってくださーい!」


 リアが手を振ると、ノアは嬉しそうに頷いた。


 やがて対戦相手の騎士が姿を現し、二人が向かい合う。


 開始の合図と同時に、会場に魔法が飛び交った。


「わぁ……!」


 リアが目を輝かせている間にも、ノアは相手の攻撃を素早くかわし、距離を詰めていく。


 相手が次の魔法を放つよりも早く、ノアは懐へと飛び込んだ。


 一瞬の攻防の末――


「勝者、ノア!」


「おおおおおっ!!」


 会場に大きな歓声が響き渡った。


「すごい! ノアさん、勝ちましたよ!」


「ふふっ。さすがノア様ですね」


 リアも嬉しそうに拍手を送った。


 その後も各国から集まった王族や騎士たちによる試合が続き、会場は大いに盛り上がっていた。


 そして、いくつかの試合が終わった頃――

 

「続いて――アヴェリオス王国、第一王子カイン! 対するは、ヴァルネス王国、護衛騎士レオン!」

 

 その名が告げられた瞬間。


「きゃあああっ! カイン殿下ー!」


「殿下、こちらを見てくださいませー!」


「今日も素敵ですわー!」


 観客席の一角から、黄色い歓声が一斉に上がった。


「……すご」


 あまりの勢いに、リアは思わずそちらを見る。


 令嬢たちは頬を赤らめ、目を輝かせながらカインへ熱い視線を送っていた。


「カイン王子って、すごく人気なんですね」


「ええ、それはもう」


 隣に座るナタリーは、どこか慣れた様子で頷く。


 すると、歓声に気づいたカインが観客席へ顔を向けた。


 いつもの柔らかな笑みを浮かべ、軽く手を振る。


「「「きゃああああっ!!」」」


 先ほどの倍はあろうかという歓声が響いた。


「……耳が」


 リアは思わず片耳を押さえた。


 しかし――


 カインの青い瞳は、騒ぐ令嬢たちを通り過ぎ、その先にいるリアを見つける。


 目が合った。


 カインの笑みが、ほんの少し深くなる。


 そして今度は、リアに向かって小さく手を振った。


「?」


 リアも、とりあえず手を振り返す。


「頑張ってくださーい!」


 その瞬間、カインは嬉しそうに笑った。


「「「きゃあああああっ!!」」」


 再び巻き起こる大歓声。


「……?」


 リアは首を傾げる。


「さらにすごくなりましたね」


「……そうですね」


 ナタリーは何とも言えない表情でリアを見つめた。


 (リア様……今の笑顔、どう見てもリア様に向けたものですよ……)


 黄色い歓声が飛び交う中、試合開始の合図が響いた。


 先に仕掛けたのは、対戦相手の騎士だった。


 放たれた魔法を、カインは軽やかにかわす。


 そして片手を前へと伸ばした瞬間、いくつもの炎が宙に現れた。


「わぁ……!」


 リアが思わず身を乗り出す。


 カインがその手を振るうと、炎は一斉に対戦相手へと向かい――その周囲を取り囲んだ。


「……そこまで! 勝者、カイン王子!」


 審判の声と同時に、カインはすぐに炎を消す。


「きゃああああっ!」


「カイン殿下ー!」


 再び令嬢たちの黄色い歓声が響き渡った。


「すごい……! あっという間でしたね!」


 リアも興奮した様子で拍手を送る。


 その声が聞こえたのか、カインが観客席のリアへ視線を向けた。


 そして、嬉しそうに笑う。


「「きゃあああああっ!!」」


「……鼓膜が……」


 リアは思わず両耳を押さえた。


 そして、次の対戦者の名が告げられた。


「続いて――エルディア王国より、第一王子ルシアス! 対するは、グランディア王国、第二王子セドリック!」


 その名が響いた瞬間、会場の空気が変わった。


 対戦場へ姿を現したルシアスに、観客たちの視線が一斉に集まる。


「……ルシアス殿下よ」


「今日もお美しい……」


「一度でいいから、こちらを見てくださらないかしら……」


 先ほどのカインのときとは違い、令嬢たちの声はどこか控えめだが、その表情は皆うっとりとしている。


「カインさんのときと全然違いますね」


 リアが不思議そうに呟く。


「ルシアス殿下は、少々近寄りがたいお方ですから……」


「ああ……」


 リアは妙に納得した。


 そのとき、ルシアスがふと観客席へ視線を向けた。


 灰色の瞳がリアを捉える。


「……あ」


 リアが小さく手を振ると――


 ルシアスはほんのわずかに、表情を和らげた。


「……!」


 周囲の令嬢たちが息を呑む。


「い、今……笑われませんでした?」


「え……?」


「ルシアス殿下が……?」


 ざわざわと周囲が騒がしくなっていく。


 けれどリアは気にすることなく、もう一度ルシアスに手を振った。


「頑張ってくださーい!」


 ルシアスはリアを見つめたまま、小さく頷いた。


「…………」


 今度こそ、周囲の令嬢たちが静まり返った。


 しかし、それもほんの一瞬のこと。


「……あの方、どなた?」


「ルシアス殿下とお知り合いなのかしら……?」


「殿下があんなふうに応じられるなんて……」


 ひそひそと囁く声が、リアの周囲に広がっていく。


「?」


 当の本人は、自分が話題の中心になっているとも知らず、不思議そうに首を傾げた。

 

 隣では、ナタリーがそっと額に手を当てていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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