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帰りたいのに、帰してくれません。  作者: 希。


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第30話 ルシアスさん、冷たい……

「リア殿は食べることが大好きですからね」


 ノアが横から口を出す。


「もう、ノアさん!」


 リアは少し顔を赤くして、ノアの腕を軽く叩く。


「……二人は仲が良いんだね」

 

 カインは少しムッとしたように、二人を見つめる。


「はい! ノアさんにはいつもお世話になっています!」


「それは私も同じですよ。リア殿にはいつも楽しませてもらっていますから」


「ノアさんがいつも勝手に笑ってるだけじゃないですか!」


 リアは、ノアが自分を揶揄っていると思い、少しムキになる。


「……一体、どんな関係なわけ?」


「それは秘密です」


 ノアは人差し指を唇の前に立て、口元に薄い笑みを浮かべながらカインを見る。


「またノアさんは!」


 リアは頬を膨らませると、カインに向き直った。


「ノアさんは、ルシアスさんの護衛騎士ですが、たまに私の面倒を見てくれます」


「……」


 カインはノアをじっと見つめる。


(世話役の割に、距離近くない?)


 そんなカインの視線にも気づいているのか、ノアは涼しい顔をしている。


「……まあ、そういうことです」


「……」


 しばらく二人の間に、妙な沈黙が流れる。


「……いい加減にしろ」


 それまで黙っていたルシアスが、呆れたように口を挟む。


「昼食に行くんじゃなかったのか?」


「ルシアスさん、助けてください!」


 リアはすかさずルシアスの腕に手を添え、助けを求めるように見上げた。


「……何を助けろと言うんだ」


「ノアさんが私をからかうんです!」


「いつものことだろう」


「そんなぁ……! ルシアスさん、冷たい……」


 リアはルシアスの腕を掴んだまま、わざとらしく肩を落とした。

 

「……仕方ないな」


 ルシアスは小さく息を吐くと、ノアを見る。


「ノア、リアを揶揄うのはそのくらいにしておけ」


「殿下は、なんだかんだリア殿に甘いですよね」


 カインは三人を眺めながら、ほんの少しだけ目を細めた。


(……こっちも距離が近いな)


 四人は資料館を後にし、王都の大通りから少し外れた、細い路地を歩く。


 しばらくすると、カインが足を止めた。


「着いたよ」


 リアが顔を上げる。


「え?こんなところにレストランがあるんですね?」


 店先には小さな看板がひとつ掛かっているだけで、店名も控えめに書かれていた。


「わかりにくい場所にあるんだけど、料理が絶品でね!密かにファンも多いんだ」    


 カインは笑ってリアを見る。


「そうなんですね! 楽しみです!」


「皆さん、お待たせしましたー!」


 後ろから別行動をしていたナタリーがやってきた。


「ナタリーさん!」


 リアは、ナタリーの元に駆け寄る。


 ナタリーも合流し、皆でレストランの中へと入って行く。


 中に入ると、そこは木の温もりを感じる落ち着いた空間だった。地元の人だけでなく、貴族も人目を忍んで通う店らしい。


「わぁ……、すごく美味しそうな匂いがします」


 リアはうっとりとした顔をする。


 店員さんが席を案内してくれて、メニューを開く。


「おすすめは、アヴェリオス名物の煮込み料理だよ。リアは嫌いな食べ物とかあるかな?」


 カインが隣に座るリアに尋ねる。


「嫌いな食べ物はありません!せっかくなので、カイン王子のおすすめの煮込み料理にしようかな」


 (あらあら……カイン王子とリア様、いい雰囲気じゃないですか!)


 ナタリーは二人を見ながら、ひっそりと口元を緩める。


(これは……面白くなってきましたね!)


 メニューを選び終え、しばらくすると料理が運ばれてきた。


 ふわりと湯気が立ち、食欲をそそる香りが広がる。

とろりと煮込まれた具材は、見るからに柔らかそうだ。

 

「わぁ……! 美味しそうです!」


 リアは目を輝かせ、さっそく料理を口に運ぶ。


 一口食べた瞬間、口の中にじんわりと旨味が広がった。


(何これ!! すっごく美味しい!)


「……ん! 美味しい!」


 リアは幸せそうに頬を緩ませる。


「気に入ったみたいでよかった」


 カインは、美味しそうに食べるリアを見て微笑む。


 そんな二人を無言で見つめる、ルシアスとノア。


「……」

「……」


 (こちらは、拗らせてますね……)


 ナタリーは少し苦笑いを浮かべながら、ルシアスとノアを交互に見つめる。


 食事を終え、一行は店を出た。


「ごちそうさまでした!すっごく美味しかったです!」


 リアは満足そうにお腹をさする。


 市場を歩いていると、ナタリーがこっそり声をかけてきた。


「リア様」


「はい?」


「カイン王子とは、ずいぶん仲良くなりましたね?」


「そうですね! カイン王子は気さくで話しやすいです」


「ふふ……お食事中も、ずっとリア様のことを見てましたよ」


「……そうでした?」


「はい。それはもう、熱心に」

 

 ナタリーは意味ありげに微笑んだ。


「……?」


 リアは首を傾げる。


「それに、ノア様も負けてませんでしたけどね」


「……!」


 リアはハッとしたようにナタリーを見る。


「もしかしてナタリーさん、カイン王子とノアさんのこと……気になるんですか?」


 リアは、ナタリーがカインとノアのことを気にしているのだと勘違いした。そして、ニヤニヤと意味ありげな笑みを浮かべながら、ナタリーを見つめる。


「……リア様、鈍すぎですよ」


 ナタリーは呆れたようにリアを見つめた。


(なぜ、そうなる……)


 ナタリーは何度目か分からないため息を飲み込んだ。


ここまでくると、鈍いというより才能なのではないだろうか。


それでも、本人はいたって真剣だ。


そんなリアが可愛くて、ナタリーは結局笑ってしまった。

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