第26話 一目惚れされました。
「…………は?」
ノアの声が低くなる。
その隣では、ルシアスが無言のままカインを見つめていた。
「…………」
——明らかに空気が変わった。
一方。
(きゃーーーっ!!)
ナタリーだけが、目を輝かせている。
「え、あの……」
リアは完全に困惑していた。
「俺、本当に一目惚れなんだ」
カインは悪びれる様子もなく、にこにこと笑う。
「……ところで、ご令嬢。お名前を聞いても?」
「えっと……リアです」
リアは戸惑いながらも答えた。
(リア……)
カインの胸が、また大きく跳ねる。
(リア)
(うん。名前まで可愛い)
「リアって呼んでもいいかな?」
「……どうぞ?」
(どうしよう……この王子様、すごくグイグイくるっ!)
「ねぇ、交流会が終わったら、王都を案内してもいい?」
「えっ!? あ、はい……?」
「やった!」
(よし!)
カインは心の中で拳を握った。
(まずは仲良くなるところからだ!)
その様子を見ていたノアは、眉間に皺を寄せる。
「…………」
ルシアスもまた、無言のままカインを見つめていた。
「…………」
ナタリーは楽しそうに二人を見比べている。
そんな周囲の反応など気にも留めず、カインはリアに笑いかけた。
その日の夜には、各国の来賓を招いた晩餐会が予定されている。
一度それぞれの部屋へ案内され、夜まで少し休憩することになった。
部屋へ入るなり、ナタリーが目を輝かせる。
「リア様、夜のドレスでも選びましょうか!舞踏会ほど正式なものではありませんが、各国の貴族様方もたくさんお見えになりますから!」
(リア様が一番綺麗だって、みなさんに知っていただく絶好の機会……!)
ナタリーはすでに気合十分だ。
そんな彼女とは対照的に、リアはというと――
「晩餐会とかあるんですね!」
ぱっと顔を輝かせる。
「美味しい食べ物が食べられるの、楽しみです!」
「…………」
ナタリーは一瞬、固まった。
(そこですか!?)
思わず心の中で叫びながらも、リアの無邪気な笑顔を見れば、そんなことはどうでもよくなってくる。
「……はい!では、美味しいものをたくさん食べられるように、素敵なドレスを選びましょう!」
「はい!」
リアは嬉しそうに頷いた。
「では、早速ですが、このあたりのドレスなんていかがでしょう?」
ナタリーはクローゼットから数着のドレスを取り出した。
そこには、淡いブルーやピンク、黄色など、色とりどりのドレスが並んでいる。
「わぁ……綺麗!どれも可愛いドレスですね」
リアは目を輝かせながら、一着ずつドレスを眺めていく。
そしてふと、一着のドレスに目が留まった。
淡いラベンダー色から裾に向かって白へと変わっていく、柔らかなグラデーションのドレス。
「これ!これがいいです!」
リアは嬉しそうにそのドレスを指差した。
「ラベンダー色から白のグラデーション、すっごく可愛いです!」
「さすがリア様!お目が高いです!」
ナタリーは、リアが選んだドレスを持ち上げる。
「では、一度こちらを試着してみましょう!」
「はい!」
リアは嬉しそうに頷いた。
そしてドレスに着替えたリアは、鏡の前でくるりと一回転した。
「わぁ…すごい!綺麗…」
鏡に映る自分の姿を、リアは嬉しそうに眺める。
(こういうの、ちょっと憧れてたんだよね!)
「リア様、とってもお似合いです!」
「本当ですか?」
「はい!とてもお綺麗です!」
「ふふっ、嬉しいです」
リアは素直に喜ぶ。
(……これは、皆様の視線を独占してしまうかもしれません)
「それでは、このままヘアメイクも済ませてしまいましょうか」
「お願いします!」
ナタリーはリアの髪を丁寧に巻いていく。
ふんわりとしたウェーブをつけた髪を、低い位置でひとつにまとめる。
そして最後に、髪飾りを手に取る。
「あら……こちらにしましょうか」
ナタリーが手にしたのは、以前ルシアスから贈られた髪飾りだった。
「あ、それがいいです!」
リアは迷いなく答えた。
「この髪飾り、気に入ってるんです」
そう言って、嬉しそうに笑う。
ナタリーはそっと髪に飾った。
「完成です!」
リアは鏡の前でくるりと一回転する。
「わぁ……!」
(ナタリーさん、美容師みたい!)
そして、晩餐会の会場へ入る前。
リアは辺りを見回し、ルシアスとノアの姿を探した。
「あ……ルシアスさん、ノアさん!」
二人を見つけると、リアは嬉しそうに手を振り、そのまま駆け寄っていく。
「お待たせしました!」
「……」
「……」
二人は、一瞬言葉を失った。
淡いラベンダーから白へと変わるドレス。
ゆるく巻かれ、低い位置でまとめられた髪。
そして、小さな唇には淡いピンク色のリップ。
いつものリアとは少し違う、華やかな姿だった。
ルシアスは、わずかに目を見開いたままリアを見つめる。
そして――髪に飾られたものに気づいた。
(……あれは、俺が贈った髪飾りか)
胸の奥が、ほんの少しだけ跳ねる。
(……付けてくれたのか)
「……」
自分でもなぜこんなに気になるのか分からない。
ただ、その髪飾りがリアの髪にあることが、妙に嬉しかった。
一方、ノアもまたリアの姿に目を奪われていた。
しかし、髪飾りに気づいた瞬間――
(……殿下から贈られたもの)
胸の奥が、わずかにざわつく。
「どうですか?このドレス、可愛いですよね!」
リアは二人の前でドレスの裾を両手で軽く持ち上げると、覚えたばかりのカーテシーをしてみせた。
「ダンスの特訓のおかげで、ちゃんと様になってますか?」
リアは楽しそうに二人を見上げる。
「……」
「……」
またしても、二人の動きが止まった。
(……反則だろ)
ノアは思わず目を逸らす。
一方、ルシアスも一瞬言葉を失ったものの、すぐに表情を整えた。
「……ああ。綺麗にできている」
「本当ですか!?」
リアの顔がぱっと明るくなる。
「やった!」
嬉しそうに笑うリアを見て、ルシアスはほんの少しだけ目を細めた。
「……十分、様になっていますよ。文句なしです」
そう言って、ノアはふっと笑う。
「……まあ、可愛いのは言うまでもないですけど」
最後の言葉だけ、小さく呟いた。
「ふふっ……じゃあ、ノア先生のおかげですね!」
どうやら、リアの耳には届いていなかったらしい。
(よし! ちゃんと練習した甲斐があった!)
「……」
一瞬、ノアの笑顔が固まった。
(……そういうところなんだよな)
けれど、すぐにいつもの飄々とした表情に戻る。
「そうですね。もっと感謝してもらってもいいですよ?」
「じゃあ、今度お菓子買いますね!」
「……そこはもう少し何かありません?」
(違う。そういう意味じゃない……)
「……そろそろ行くぞ」
それまで黙っていたルシアスが、二人の会話に割って入った。
(……いつまで話している)
「はい! 行きましょう」
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