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第3話 王都へ行くことになりました。

「殿下、この子……かなり怪しくないですか?」


 ブラウンの髪の青年はリアをじっと見つめながら、どこか楽しそうに口元を緩めた。


「えっ?」


 いきなりそんなことを言われて、目を丸くした。


「怪しいって……私が?」


「この場所に突然現れた。見たことのない服装をしている。聞いたことのない国の名を口にする」


「……」


 彼は少しだけ首を傾げた。


「逆に聞きますけど、怪しくない要素あります?」


「……っ」


(いや……私からしたら、そっちの方がよっぽど怪しいんだけど)


 思わず口に出そうになった言葉を、リアはぐっと飲み込んだ。

 

(突然知らない場所に連れてこられて、知らない人たちに囲まれて……)


 ちらりと二人を見る。


(しかも、王子様と騎士みたいな格好してるし)


 どう考えても、自分の方が普通だと思う。


 そんなことを考えていると、


「おーい、大丈夫ですか?」


 ブラウンの髪の青年が、リアの目の前でひらひらと手を振る。


 その動きに気づき、リアははっと顔を上げた。


「あっ、すみません!……でも私、本当に何も分からないんです。気づいたらここにいて。 さっきまで普通に歩いていただけなのに……」


 リアは少し困ったように笑う。


「でも、どうやって帰るのか分からなくて……」


「……本当に、何も知らないんですか?」


 青年は探るような目で、リアを見つめる。


「はい……。ここがどこなのかも分からないし」


 リアは辺りを見回す。


 見れば見るほど、知らない景色だった。


「とりあえず、帰る方法を探してみます」


 そう言いながらも、リアの表情は意外なほど落ち着いている。


 もちろん、最初は驚いた。突然、見知らぬ場所にいたのだから当然だ。けれど、よくよく考えてみれば、慌てたところで状況が変わるわけでもない。


(慌てても、帰れるわけじゃないし……)


 そう考えると、リアは意外なほど早く冷静さを取り戻した。


 大人しそうな見た目とは裏腹に、リアは案外、図太い性格をしている。


 それは、本人も自覚していないことだった。

 

 先程まで黙っていた銀髪の青年が、目を細めた。


「……随分と楽観的だな」


「そうですか?」


 リアは首を傾げる。


「だって、ここで悩んでても仕方ないですし」


 青年は、しばらくリアを見つめていた。


 やがて、静かに口を開く。


「ならば、君をこの場所に一人で残すわけにはいかない」

 

「えっ?」


 リアは顔を上げた。


「まずは、王都へ向かおう」


「王都……?」


「そこで君の事情を聞こう。君がいた場所についても、何か分かるかもしれない」


「本当ですか?」


 リアの表情がぱっと明るくなる。


「じゃあ、お願いします!」


 あまりにも素直な返事に、青年は一瞬だけ目を瞬かせた。

 

「ここにいるよりは可能性があるだろう」


 銀髪の青年がそう言うと、ブラウンの髪の青年が少し驚いたように口を挟んだ。


「へぇ……殿下にしては、珍しいですね」


「何がだ?」


「見ず知らずの女の子を、わざわざ王都まで連れて行くなんて」


「……」


 銀髪の青年はちらりとリアを見た。


「放っておけば、危険だからだ」


「へぇ……なるほど。危険だから、ですか」


「何が言いたい?」


「いえいえ。別に何も?」


 ブラウンの髪の青年はそう言いながら口元に薄い笑みを浮かべ、ちらりとリアを見る。


「殿下がそうおっしゃるなら、俺は従いますけどね」


「何だ?」


「いえ。殿下がここまで誰かを気にかけるのは珍しいなと思いまして」


「ノア」


 銀髪の青年が、静かに名前を呼ぶ。


「はいはい。分かりましたよ、これ以上は黙っておきます」

 

「彼女をこのまま置いていくことはできない」


 その言葉に、リアは思わず「殿下」と呼ばれている彼を見つめた。


 この世界に来てから、何も分からなくて。


 帰る方法も分からなくて。


 でも――


 この人は、助けようとしてくれている。


「王都へ、連れて行ってください」


 小さく頭を下げた。


「分かった」


 彼は、静かに頷いた。


 こうしてリアは、名前も知らない二人の青年を頼りに、エルディア王国の王都へ向かうことになった。

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