幕間 ルシアスside (……気に入らない)
「…………」
部屋に戻ったルシアスは、椅子に腰を下ろした。
だが、どうにも落ち着かない。
「……なぜだ」
今日も一日、何かと苛立っていた気がする。
いや。
今日だけではない。
この三日間ずっとだ。
ルシアスは眉間に皺を寄せた。
「…………」
——そういえば。
馬車の中でも、ずっと同じような感覚があった。
*
「…………」
向かい側では、リアとノアが楽しそうに話している。
リアが何かを言えば、ノアが笑う。
ノアが何かを言えば、リアも楽しそうに笑う。
「…………」
ルシアスは無言で窓の外へ視線を向けた。
(……なぜ、あの二人はあんなに自然に隣にいるのだ。)
距離が近い、というだけではない。
そこに“違和感がない”ことが、妙に引っかかる。
本来なら、気にする必要のない光景のはずだ。
リアが誰と話そうと、それは彼女の自由だ。
ノアもまた、護衛として当然の距離を取っているだけだ。
それなのに。
「…………」
胸の奥が、妙にざわつく。
リアが笑うたびに、ノアの視線がそこに向く。
その視線が、あまりにも自然で。
あまりにも“慣れている”ように見えて。
(……何だ、それは)
自分でも分からない感情が、喉の奥に引っかかる。
ただの会話だ。
ただの距離だ。
そう理解しようとするのに。
理解した瞬間に、別の感情がそれを否定する。
(……気に入らない)
その言葉の意味すら、ルシアス自身は掴みきれていない。
*
そして現在。
ルシアスは椅子に深くもたれた。
「…………」
やはり、分からない。
ノアは信頼できる人間だ。
リアに対しても、過剰なことはしていない。
むしろ、適切な距離を保っているはずだ。
それなのに。
「……なぜ、あの距離が“当然”のように見える」
その瞬間、胸の奥がまたわずかにざわついた。
理由の分からない不快感。
説明のつかない引っかかり。
それは理性ではなく、もっと曖昧で、もっと厄介なものだった。
ルシアスは目を細める。
「……私は、何を気にしている?」
その問いに、答えは返らない。
ただ、リアとノアが並んで笑っていた光景だけが、妙に頭から離れなかった。
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