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帰りたいのに、帰してくれません。  作者: 希。


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幕間 ノアside 「……あれは反則だろ」

 「…………」


 部屋に戻ってから、もう何度目になるか分からないため息をついた。


「……なんで、こんなに意識するんだよ」


 ノアは一人、頭を抱えた。


 この三日間、馬車の中でリアの隣に座ることは何度もあった。


 他愛のない話をして。


 一緒に笑って。


 時には、窓の外を眺めながら静かに過ごした。


 それだけのことだった。


 ……本当なら。


 好きだと自覚する前なら、きっと何も思わなかった。


 けれど。


 自分の気持ちに気づいてしまってからは、何もかもが違って見える。


 隣に座っているだけで、妙に意識してしまう。


 リアが笑えば、胸が騒ぐ。


 ふと顔を向けられるだけで、心臓が跳ねる。


 馬車の中で楽しそうに笑っていたリアの姿が、頭から離れない。

 

「……近かったな」


 ぽつりと呟く。


 そして――。


 すぐ隣から、ふわりと漂ってきた甘い香り。


「…………っ」


 ノアは片手で顔を覆った。


 ……思い出すな。


 そう思うほど、鮮明に蘇ってくる。


 髪が少し揺れるたびに、ふわっと香って。


 そのたびに、隣にいることを意識させられた。


「……あれは反則だろ」


 誰に言うでもなく呟く。


 もちろん、リアにそんなつもりがないことくらい分かっている。


 分かっているからこそ、余計に困る。


 リアは何も知らない。


 こっちがどれだけ意識しているのかも。


 隣に座って、あんな無邪気な顔で笑われて。


 平然としていられるほど、俺は器用じゃない。


「…………」


 ノアは椅子に深くもたれた。


 好きだ。


 もう、とっくに自覚している。


 だからこそ――。


「……困ったな」


 小さく笑って、天井を見上げる。


 こんなことでいちいちドキドキしていたら。


 この先、どうするんだ。


 舞踏会では、リアもいつもとは違う姿になる。


 きっと綺麗なドレスを着て。


 髪も綺麗に整えて。


 そんな姿を、たくさんの人が見ることになる。


「…………」


 そこまで考えて、ノアの眉間に皺が寄った。


 ……なんだろう。


 それは、嫌だ。


 いや、嫌というのもおかしい。


 なのに、どうにも面白くない。


「……俺、こんなに独占欲強かったっけ」


 自分でも呆れて、ノアはまたため息をついた。


 そして結局。


 もう一度だけ、馬車の中で隣にいたリアを思い出してしまう。


 楽しそうに笑う顔と、ふわりと漂った甘い香り。


「…………はぁ」


 そして、ふと我に返る。


「……待て」


 この三日間、自分はリアの隣でどれだけ顔に出していた?


「…………」


 嫌な予感がする。


 もしや――。


「……バレてないよな?」


 誰もいない部屋で、真剣な顔をして呟く。


 もちろん返事はない。


「…………よし」


 ノアは勝手に頷いた。


「明日は、もう少し平静を装おう」


 そう決意した直後。


 ……明日もリアの隣に座れたらいいな。


 そんなことを考えてしまい。


「……いや、だから!」


 ノアは一人、頭を抱えた。


 まずい。


 この調子では、気持ちがバレる前に、自分のほうが耐えられなくなりそうだ。


 三日目の夜。


 ノアの反省会は、しばらく終わりそうになかった。


 ――舞踏会まで、あと少し。

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