第22話 右?あれ、左?
――翌日。リアはダンスの最終確認を迎えていた。
リアは基本的なステップを一通り覚え、いよいよ最終確認の日を迎えた。
「それでは殿下、よろしくお願いいたします」
ノアが一歩下がる。
ルシアスはリアの前に立つと、静かに右手を差し出した。
「……始めるぞ」
「は、はい!」
リアは少し緊張しながら、その手を取った。
ルシアスの手が、リアの手をしっかりと包む。
「……」
その瞬間、リアの胸が小さく高鳴った。
(……やっぱり、王子様と踊るってすごいな)
昨日までノアと何度も練習していたはずなのに、相手がルシアスになると妙に緊張する。
「緊張しているのか?」
「え?」
ルシアスがリアを見つめる。
「少しだけ……」
「そうか」
ルシアスは、ほんの少し口元を緩めた。
「なら、俺を見ろ」
「……え?」
「足元ばかり見ていては、相手と合わせられない」
「は、はい……」
リアは顔を上げる。
すぐ目の前に、ルシアスの顔があった。
(……近っ!)
思わず瞬きをする。
けれど、いつまでも目を逸らしているわけにもいかない。
リアは意を決して、ルシアスの目を見つめ返した。
「……こうですか?」
「……ああ」
ルシアスが頷く。
「でも……」
リアは少しだけ首を傾げた。
「ルシアスさんも、私のことちゃんと見てくださいね?」
「……」
ルシアスの動きが、ほんの一瞬止まった。
「……何?」
「だって、相手を見ないと合わせられないんですよね?」
リアは何の疑いもなく、にっこりと笑う。
「だから、お互いにちゃんと見ないと」
「……そうだな」
ルシアスは一瞬だけ視線を逸らした。
(……なぜ、今ので動揺した?)
そんなルシアスの変化に、リアは気づかない。
「じゃあ、続きお願いします!」
「ああ」
ルシアスは平静を装いながら、再びリアへ向き直った。
「一歩」
「はい」
「次は右だ」
「右……こっち?」
リアが自信満々に踏み出す。
「それは左だ」
「……あれ?」
リアが自分の足元を見る。
「……右って、こっちでしたっけ?」
「そうです」
後ろからノアが思わず吹き出した。
「リア殿、昨日あれだけ練習したのに……」
「だって、右と左って似てません?」
「似てませんよ」
「えぇ……」
リアは納得できないように自分の両手を見る。
「じゃあ、こっちが右……?」
「それは右です」
「よし!」
「なぜそんなに自信満々なんですか」
ノアが笑う。
ルシアスも、わずかに口元を緩めた。
「……リア」
「はい?」
「まず、右と左を覚えるところから始めた方がよさそうだな」
「えっ」
リアは頬をぷくっと膨らませた。
「そこは大丈夫です!」
「……」
ノアは一瞬、言葉を失った。
「大丈夫、なんですね?」
「はい!」
リアはぷくっとした頬のまま、こくんと頷く。
「ちゃんと分かってます!」
「……では、もう一度」
「はい!」
ノアは笑いを堪えながら、再び二人の動きを確認する。
リアと向き合っていたルシアスは、頬を膨らませたまま真剣に構える彼女を見て、わずかに目を細めた。
「……本当に分かっているのか?」
「分かってます!」
「そうか」
そう答えたルシアスの口元が、ほんの少しだけ緩む。
「じゃあ、続けよう」
「はい!」
リアは何も気にせず、再びステップを踏み始めた。
一曲踊り終えると、ルシアスはそっと手を離した。
「……十分だ」
「本当ですか!」
リアの顔がぱっと明るくなる。
ノアも嬉しそうに微笑む。
「これなら舞踏会でも安心ですね」
「ありがとうございます!」
リアは二人へ笑顔を向ける。
その笑顔を見たルシアスは、ほんのわずかに口元を緩めた。
「……よく頑張った」
その一言に、リアは少し照れくさそうにはにかんだ。
(舞踏会、楽しみだな……)




