第21話 ダンスの練習です。
王都から戻った翌日。
今日から、属性魔法の練習が始まる。
リアはノアと共に、魔法研究室へ向かった。
研究室へ着くと、そこにはオスカーと話をしているルシアスの姿があった。
「殿下、おはようございます。どうされたんですか?」
ノアが声をかけると、ルシアスは振り返った。
「ちょうど良いタイミングで、アヴェリオス王国から魔法研究交流会への招待状が届いた」
「なるほど。それなら話が早いですね」
ノアが頷いた。
「魔法研究交流会……?」
リアが首を傾げる。
「毎年、各国から魔法研究者や魔導士が集まる大きな交流会だよ」
オスカーが説明する。
「魔法技術の研究発表や、開発された魔道具の展示などが行われてね。それだけじゃなくて、各国の魔導士による魔法対戦もあって、互いの技術を高め合う場でもあるのさ」
「魔法対戦……!」
リアは興味深そうに目を輝かせる。
「毎年かなり盛り上がる行事なんですよ。王族や貴族だけでなく、魔法に携わる人たちにとっても特別な催しなんです」
ノアが穏やかに付け加える。
「夜には、各国の王族や貴族が参加する歓迎舞踏会も開かれるしね」
オスカーが続けた。
「交流会へ参加する王族は、歓迎舞踏会にも出席するのが慣例なんですよ」
ノアが微笑む。
「舞踏会……!」
リアは思わず声を弾ませた。
(なんだか、おとぎ話みたい……)
ルシアスは少し間を置き、リアを見る。
「昨日、資料館の学芸員が話していた通り、アヴェリオス王国にはアスタリア王国と交流のあった魔法研究者もいる。魔法陣について知る者がいる可能性は十分ある」
「……!」
リアは目を見開いた。
「父上には話を通してある。リアも同行する許可をもらった」
「私も……いいんですか?」
「ああ」
ルシアスは静かに頷く。
「リア殿にとっても、大きな手がかりになるかもしれませんね」
ノアが優しく微笑む。
「君が探している答えに近づけるかもしれない。だから、行く価値はある」
「ありがとうございます」
リアはルシアスとノアを見て、嬉しそうに頭を下げた。
「じゃあ、交流会までの間は予定を変更しようか」
オスカーがリアを見る。
「え?」
リアはきょとんと首を傾げた。
「まずは、歓迎舞踏会に向けてダンスの練習だ」
「わ、私も踊るんですか!?」
リアは思わず目を丸くした。
「当然でしょう」
ノアが苦笑する。
「舞踏会ですよ?」
「そうですよね……」
リアは少しだけ考える。
「でも、誰と踊るんですか?」
「殿下と、ということになるでしょうね」
「殿下って……」
リアは隣にいるルシアスを見る。
「ルシアスさん?」
「ああ」
「ルシアスさんと踊るんですか!?」
「そうなるな」
「……!」
リアの目が、ぱっと輝いた。
「王子様と踊るなんて、それこそおとぎ話じゃないですか!」
嬉しそうに笑うリアを見て、ノアは思わず吹き出した。
「ふふっ。リア殿、ずいぶん楽しそうですね」
「だって、王子様ですよ!?」
リアは目を輝かせたまま、ルシアスを見る。
「すごい……!本当に王子様と踊るんだ……!」
「……そんなに珍しいものか?」
ルシアスが少し困ったように尋ねる。
「珍しいですよ!」
リアは即答した。
「私のいたところでは、王子様と踊る機会なんてありませんから!」
「……そうか」
ルシアスは、リアの嬉しそうな顔を見つめる。
「では、楽しみにしておけ」
「はい!」
リアは満面の笑みで頷いた。
その様子を見て、ノアは小さく笑った。
「では、期待に応えられるよう、しっかり練習しないといけませんね」
ノアが優しく微笑んだ。
「ダンスの練習は俺がお手伝いします。基礎からゆっくり覚えていきましょう」
「ノアさんが教えてくれるんですか?」
「あはは。多少の心得はありますから」
ノアが穏やかに笑う。
こうしてリアは、二週間後に行われる魔法研究交流会に向けて、ノアからダンスを教わることになった。
最初はぎこちなかった足取りも、数日後にはノアの丁寧な指導のおかげで少しずつ形になっていく。
「そうです。そのまま一歩前へ」
「こうですか?」
リアが一歩踏み出すと、勢い余って少しよろけた。
「わっ……」
倒れそうになったリアを、ノアがそっと支える。
「おっと、大丈夫ですか?」
「す、すみません!」
顔を赤くして慌てるリアに、ノアは優しく微笑んだ。
「焦らなくて大丈夫ですよ。リア殿は飲み込みが早いですから」
「本当ですか?」
リアが嬉しそうに笑う。
その無邪気な笑顔に、ノアは一瞬だけ目を奪われた。
(……その笑顔は、反則すぎる)
しかし、その想いは胸の奥へしまい込み、何事もなかったように手を差し出す。
「もう一度やってみましょう」
「はい!」
二人が練習を続けていると、ルシアスが様子を見に来た。
「ルシアスさん! 見てください!」
リアは嬉しそうに駆け寄る。
「……ああ。ずいぶん上達したな」
ルシアスが、穏やかにリアを褒める。
「本当ですか!? やった!」
リアは嬉しそうに笑った。
「……」
その様子を見ていたノアは、なぜか言葉を失った。
(……なんだ?)
胸の奥が、ほんの少しざわつく。
リアが褒められて喜んでいる。
ただ、それだけのことなのに。
(……どうして、こんなに気になるんだ?)
ノアは自分でも分からないまま、リアから視線を逸らした。
「ノアさん?」
「……はい?」
突然呼ばれ、ノアは顔を上げる。
「もう一回、練習してもいいですか?」
リアが笑顔で尋ねる。
「もちろんです」
そう答えながら、ノアは手を差し出した。
リアがその手を取る。
「……」
触れた瞬間、さっきまでのざわつきがまた胸の奥に広がった。
(……俺は、何を気にしているんだ)
ノアは、自分でも分からない胸のざわつきを抱えたまま、再びリアと向き合った。
「もう一度、やってみましょう」
「はい!」
何度も繰り返すうちに、リアの動きは少しずつ滑らかになっていく。
そして――
「……できた!」
最後のステップを綺麗に決めたリアが、ぱっと顔を輝かせた。
「ノアさん、できました!」
「ええ。上手でしたよ」
「やったぁ!」
リアは嬉しそうに笑い、そのままノアの手をぎゅっと握った。
「ありがとうございます!」
「……」
突然握られた手。
そして、目の前にある満面の笑み。
その瞬間――
胸の奥にあった違和感が、すっと形を変えた。
リアが他の誰かに笑いかけた時の、あの妙なざわつき。
もっと近くにいたいと思ってしまう理由。
全部が、ひとつに繋がった。
(……ああ)
ノアは静かに息を呑む。
答えは、驚くほど簡単だった。
(俺は……リア殿が好きなんだ)
そう気づいた瞬間、繋いだ手が急に意識される。
けれどノアは、その手を握り返すこともできず――ただ、嬉しそうに笑うリアを見つめていた。




