第12話 魔法について聞きました。
「では、魔力の基礎から説明しよう」
オスカーは近くにあった黒板へ向かい、白いチョークを手に取った。
「この世界に生きる人間は、皆、魔力を持っている」
「……全員?」
「そう。魔力の量に差はあるけれどねぇ」
オスカーは黒板に、人の形をいくつか描いた。
「魔力は、生まれつき体の中に存在している。けれど、その量は人によって大きく異なるんだ」
「じゃあ、魔力が少ない人もいるんですね」
「その通り」
オスカーは頷いた。
「魔力を持っているからといって、誰もが魔法を使えるわけではない」
「えっ?」
リアは目を瞬かせた。
「使えない人もいるんですか?」
「もちろん」
オスカーは黒板に線を引いた。
「魔力が一定以上あれば、魔法を使うことができる。だが、魔力量が少ない者は、魔力を魔法として外へ放出することができないんだ」
「なるほど……」
「だから、この世界では魔力を持っていても、魔法を使えない人間は珍しくない」
オスカーはチョークを置いた。
「魔法を使える人間は、おおよそ二人に一人といったところかな」
「半分くらい……」
「そう。だから、魔法が使えること自体は、それほど珍しいことではないんだよ」
リアは頷きながら話を聞いていた。
この世界の人は、みんな魔力を持っている。
でも、魔力量によって魔法を使える人と使えない人がいる。
なんとなく理解できてきた。
「それで、魔法には属性がある」
オスカーは黒板に六つの文字を書いた。
炎。
水。
氷。
風。
光。
闇。
「基本的には、この六つの属性だねぇ」
「基本的には?」
リアが聞き返すと、オスカーは意味深に笑った。
「まあ、例外もあるけれど……それは今は置いておこう」
「例外……」
気になったが、オスカーはそのまま説明を続けた。
「魔法を使える者は、基本的にこの中のひとつの属性を持って生まれる」
「ひとつだけ?」
「ああ」
オスカーは黒板に大きく「一」と書いた。
「炎属性なら炎魔法、水属性なら水魔法……というように、基本的には自分の属性に対応した魔法を使う」
「なるほど……」
リアは隣にいるルシアスを見た。
「じゃあ、ルシアスさんは氷属性なんですね」
「ああ」
「やっぱり!」
リアは思わず声を上げた。
「昨日、氷の魔法を使ってお花作ってくれましたもんね」
リアはにっこり笑ってルシアスを見た。
「そうだったな」
「すごく綺麗でした」
「……」
ルシアスは、ほんの一瞬だけ視線を逸らした。
その横で、ノアが口を開く。
「ちなみに俺は風属性です」
「風……」
「そうそう」
ノアが指先を軽く動かす。
すると、指先から小さな風が生まれ、リアの髪をふわりと揺らした。
「わぁ……!」
「どうです? すごいでしょう?」
「はい!」
「じゃあ、もう少し――」
「ノア」
ルシアスの低い声が飛んできた。
「はい。やりすぎません」
ノアは素直に手を下ろした。
リアは小さく笑いながら、黒板へ視線を戻した。
「じゃあ、オスカーさんは何属性なんですか?」
「僕かい?」
「はい」
オスカーは、にやりと笑った。
「僕は――」
「先生は水属性です」
ノアが横から答えた。
「おや、先に言われてしまったねぇ」
「聞かれたので」
「僕に答えさせてくれてもよかったんじゃないかい?」
「どうせ余計なことを言うでしょう」
「そんなことはないよ?」
「絶対言います」
リアは、二人のやり取りを見ながら思わず笑ってしまった。
「ふふっ」
「それで……光と闇は?」
リアが尋ねると、オスカーの表情が少し変わった。
「光属性と闇属性は、六属性の中でも特殊な属性だねぇ」
「特殊?」
「うん。どちらも持っている人間が少ない」
オスカーは黒板に書かれた「光」と「闇」を指した。
「特に闇属性は、かなり珍しい」
「そうなんですか?」
「ああ」
オスカーは頷いた。
「もちろん、光属性の人間も、闇属性の人間も存在する」
そこで、オスカーは一度言葉を切った。
「けれど――」
リアへ視線を向ける。
「光と闇。その両方を持つ人間は、今まで確認されていない」
「……え?」
リアは、ゆっくりと瞬きをした。
「確認されて……いない?」
「そう」
オスカーは、先ほどの水晶を見た。
「だから、さっきの測定結果は……僕にとっても初めて見るものだった」
「……」
リアは、自分の手を見つめた。
先ほど水晶の中に浮かんだ、金色と黒色の光を思い出す。
「じゃあ……私は」
オスカーは、ゆっくりと笑った。
「光と闇。二つの属性を持っている」
「……」
リアは、まだその言葉の意味を理解しきれていなかった。
ただ。
どうやら自分は、この世界では少し変わった存在らしい。
「……なんだか、すごいですね」
リアがぽつりと呟くと。
「うん」
オスカーは満面の笑みを浮かべた。
「すごいどころじゃないけどねぇ」
「先生」
ノアが釘を刺す。
「リア殿を怖がらせないでください」
「おや、そんなつもりはないよ?」
オスカーはそう言いながら、再び魔力量測定器へ視線を向けた。
「さて」
そして、にっこりと笑う。
「次は魔力量を測ろうか」
リアは、少しだけ緊張しながら頷いた。
「はい」
その時のリアは、まだ知らなかった。
自分の魔力量が、この世界の常識すら超えていることを。




