間章-21:若者の成長
ソウル、大統領府。
大統領・尹秀賢は、パク・ソジュンの帰国会見の映像を、既に何度も繰り返し見ていた。
『いやー、本当にすごい経験でした! 神崎さんの動き、間近で見られて、僕の探索者人生の宝物です!』
快活な笑顔。
その裏に、負傷しながらも最後まで戦い抜いた根性が滲んでいた。
「あの若者、うちでも一気に人気者になったな」
「はい」
科学技術担当の秘書官が答える。
「特に、若い世代の探索者志望者から、絶大な支持を得ています。先週発表された調査では、二十代の新規探索者志望者のうち、約三割が『パク・ソジュン選手の活躍を見て決意した』と回答しています」
「三割、か」
尹は、思わず口笛を吹きそうになった。
「あの若者、随分と国の後押しをしてくれたわけだ」
「本人にも、正式な表彰を検討しています」
「良い。盛大にやってやってくれ」
尹は、資料をめくった。
映像の中、負傷した肩に包帯を巻いたソジュンが、それでも笑顔を絶やさずに、記者たちの質問に答えている。
「継刃の件について、うちの分析班の見解は」
「素材そのものに宿った性質が、使い手との相性次第で発現する、という仮説を立てています。ただ、日本側の研究班との情報交換も踏まえ、まだ検証段階です」
「悪くない仮説だな」
「加えて、これは推測の域を出ませんが」
秘書官が、少し声を落とす。
「発現の条件には、使い手自身の集中力や、精神的な状態も関わっているのではないか、という意見も出ています」
「面白いな。つまり、技術だけでなく、心構えの問題でもある、ということか」
「はい」
「うちの装備開発にも、活かせそうか」
「時間はかかりますが、可能性はあります。特に、我が国が強みとするゲーム業界のシミュレーション技術を活用すれば、発現条件の解析を、効率的に進められるかもしれません」
「急ぐ必要はない。着実に進めろ」
尹は、少し考えてから続けた。
「それと、魔素の研究について、日本との合同シンポジウムを開催できないか、検討してくれ」
「合同シンポジウム、ですか」
「隣国同士、これだけ協力関係が深まっているんだ。もっと大々的に、知見を共有し合う場があっていい。研究者だけでなく、探索者同士の交流会も、併せて企画したい」
「素晴らしい発想だと思います。九条総理にも、打診してみましょう」
「頼む」
尹は、映像の中のソジュンを、もう一度見つめた。
「この若者たちが、この国の未来を作っていく」
「はい」
「隣に負けじと、じゃない」
尹は、小さく笑った。
「隣と共に、前へ進む。そういう時代に、なってきているのかもしれんな」
「大統領」
秘書官が、少し躊躇いがちに言う。
「もう一つ、ご報告が。ソジュン選手本人から、私的なメッセージが届いています」
「読んでくれ」
「『大統領、僕、日本語をもっと勉強しようと思います。もっと深く、神崎さんや、他の国の探索者たちと話せるようになりたいので』とのことです」
尹は、思わず笑みを浮かべた。
「良い心がけだ。語学予算でも、何でも、支援してやってくれ」
「かしこまりました」
窓の外、漢江の夜景を見ながら、尹は、静かにそう呟いた。
「この国境を越えた繋がりが、これからの時代を、きっと作っていくんだろうな」




