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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
間章(3ー4)
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間章-19:我が国の探索者

ホワイトハウス、状況分析室。


大統領・マーカス・ウェインは、モリソンの帰国報告書を、既に三度は読み返していた。


分厚いファイルの表紙には、国防総省のロゴと並んで、「継刃現象・現地観測記録」という、少し場違いなほど詩的な見出しが躍っている。


「本人は、なんと言っている」


「大興奮です」


補佐官が、苦笑いを堪えながら答える。


「一言一句、そのまま読み上げましょうか」


「頼む」


「『大統領、あの日本の刀の化け物じみた性質を、自分の目で見られただけで、行った価値があった。正直、除隊してから、あそこまで胸が熱くなったのは初めてだ』とのことです」


ウェインは、思わず声を上げて笑った。


「ライフル狂らしい感想だな。あの男、海兵隊にいた頃から、こういう率直さだけは変わらん」


「大統領は、モリソン氏を、以前からご存知だったのですか」


「昔、視察で顔を合わせたことがある程度だ。まさか、あそこまで探索者として名を馳せるとは、当時は思いもしなかった」


ウェインは、資料をめくった。


映像の静止画には、両腕から炎を纏う日本人青年と、その少し後ろで、驚愕の表情を浮かべるモリソンの姿が写っている。


「継刃の一件、こちらの分析班にはどう伝わっている」


「モリソンの証言と、日本側から公開された配信映像、そして先方の研究班から共有された一部データ。この三つを突き合わせて、既に検証を始めています」


「進捗は」


「まだ、緒に就いたばかりです。ただ」


補佐官が、別の資料を取り出す。


「魔素を宿した素材そのものに、初めて対峙した敵の性質を蓄積する働きがあるのではないか、という仮説は、我が国の研究者の間でも、急速に支持を集めています」


「うちの装備開発にも、応用できそうか」


「まだ判断は早計です。ですが、国防総省の一部部局からは、既に色めき立った問い合わせが来ています。『次世代兵器開発における、重要な足がかりになり得る』と」


「気が早いな、うちの連中も」


ウェインは、小さく笑った。


「だが、その気持ちも分かる。あんな映像を見せられれば、誰だって色めき立つだろう」


「対応方針は、いかがされますか」


「うちも、独自に武具の研究を進めさせろ。予算は、然るべき部局と調整してつけてやってくれ」


「かしこまりました」


「ただし」


ウェインは、資料を閉じ、真剣な表情になった。


「日本のやり方を、そのまま真似るな。あの国は、あの刀鍛冶青年の技術と情熱があってこそ、あそこまでのものを生み出した。もし、うちが同じことをやろうとすれば、それはただの猿真似にしかならん」


「では、我が国独自のアプローチとは」


「うちには、うちの強みがある。工業力、そして、何より、様々な背景を持つ人材の多様性だ。退役軍人、エンジニア、ゲーム開発者、映画の特殊効果スタッフ。あらゆる分野の知恵を結集させろ」


「承知しました。有識者委員会にも、その方向性で協議を進めさせます」


「魔法の件は、どうなっている」


「三カ国間の共有枠組みの中で、限定的に情報を受け取っています。天音という日本の探索者の事例を参考に、我が国内でも、経過観察の対象者を拡大しています」


「発現例は」


「まだ、確認されていません」


「いずれ、出てくるだろう」


ウェインは、窓の外、ワシントンの空を見上げた。


「その時のために、備えだけは、怠るな。パニックにならない準備、悪用されない管理体制。両方が必要だ」


「承知しました」


補佐官が退室した後、ウェインは一人、モリソンから届いた私的なメッセージを、もう一度読み返した。


『大統領、あの神崎って青年、噂通りの変人だった。でも、悪い意味じゃない。素材のことしか頭にないくせに、いざとなったら誰よりも体を張る。ああいう奴が、世界を少しずつ変えていくんだろうな』


ウェインは、小さく笑った。


「......変人か」


悪くない評価だと思った。


この国にも、いずれ、そういう存在が現れるかもしれない。


派手で、賑やかで、時に無秩序なこの国の探索者文化の中から、いつか、世界を驚かせる誰かが生まれる日を、ウェインは、心のどこかで、楽しみに待っていた。


「もう一つ、大統領」


補佐官が、部屋を出る間際、思い出したように振り返る。


「なんだ」


「モリソン氏、除隊後の身の振り方に迷っていたそうですが、今回の一件で、腹を括ったそうです。『残りの人生、あの化け物じみた刀の謎を追いかけることに使う』と」


「良い人生だ」


ウェインは、静かに頷いた。


「そういう生き方を選べる時代に、我々は、確かに足を踏み入れている」


窓の外、夕暮れが近づいていた。


この国なりのやり方で、新しい時代への準備が、静かに、しかし着実に進んでいた。

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