3-22:圧倒的な差
振り下ろされる腕を、辛うじて受け流す。
だが、それだけで、体が大きく吹き飛ばされた。
「――っ!」
地面を転がり、なんとか体勢を立て直す。
肋骨のあたりに、鈍い痛みが走った。
「神崎!」
相馬の声。
「大丈夫です......!」
答えながら、目の前の巨体を見据える。
これまで、何十体という個体を仕留めてきた。
だが、これほどまでに、力の差を感じたのは、初めてだった。
構造は、見えている。
関節の位置。
筋肉の付き方。
弱点になりそうな箇所も、頭では、はっきりと分かっている。
だが、そこに刃を届かせるだけの、隙が作れない。
「モリソン、援護を!」
「やってる!」
モリソンの銃撃が、猿の側面を捉える。
だが、皮膚の表面で、炎が弾丸を弾いた。
「効かない、だと......!」
「体表の熱が、弾道を逸らしてる!」
ハートが、資料を片手に叫ぶ。
「近接以外、有効打が期待できません!」
「くそっ......!」
ソジュンが、機動力を活かして、猿の背後へ回り込む。
短剣で斬りつけるが、浅い傷にしかならない。
「硬すぎる......!」
「離れろ、ソジュン!」
相馬の声と同時に、猿の尻尾のような突起が、ソジュンを薙ぎ払う。
「ぐあっ!」
「ソジュン!」
辛うじて、地面に転がって衝撃を逃がしたソジュンが、苦悶の表情を浮かべる。
「立てるか!?」
「......なんとか」
だが、明らかに、動きが鈍っていた。
自分は、再び、猿と対峙する。
あの、流れ込んできたイメージ。
燃え盛る炎を、体の内側から操る感覚。
それを、意識してみる。
だが。
「......何も、起きない」
当然だった。
どうすればいいのか、具体的な方法が、まるで分からない。
ただ漠然と、映像として流れ込んできただけのものを、実際の力として引き出す術など、知らない。
「くっ......!」
猿が、再び踏み込んでくる。
今度は、辛うじて避けたものの、爪の先が肩を掠めた。
布地が裂け、鋭い痛みが走る。
「神崎さん!」
ハートの叫び声。
「退避を検討すべきです! このままでは――」
「まだです!」
思わず、声を張り上げていた。
仲間たちが、ここまで援護してくれている。
自分だけが、易々と退くわけにはいかない。
だが、体は、確実に、限界に近づいていた。
腕が、鉛のように重い。
視界の端が、少しずつ、霞み始めている。
『刀オタクさん、無理しないで......!』
『撤退でいいよ、頼むから!』
コメント欄が、悲鳴に近い声で埋め尽くされていく。
猿が、再び、大きく腕を振りかぶった。
これまでで、一番大きな一撃。
継刃を構えるが、正面から受け止めれば、また、あの刀が悲鳴を上げるかもしれない。
だが、避ける余裕は、もう残されていなかった。
(......まだ、だ)
諦めるには、まだ早い。
あの日、鬼と対峙した時も、絶望的な状況だった。
それでも、活路は、確かにあった。
自分は、迫りくる腕を見つめながら、もう一度、あの燃え盛る炎のイメージを、強く思い描いた。
今度は、ただ思い出すのではなく。
まるで、自分自身の体の中に、それを呼び込むように。
その瞬間。
腕の内側に、これまで感じたことのない、熱い何かが、確かに、蠢いた。




