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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第三章:ファンタジー
88/125

3-20:初めての一撃だけ

合同探索、二日目。


「今日は、意図的に検証を進めましょう」


ハートが、昨日の記録をまとめた資料を広げながら言う。


「同じ種類の個体を、複数回、神崎さんに仕留めてもらいます。もし仮説通りなら、毎回、あの感覚があるはずです」


「分かりました」


十一層、昨日通った水域近く。


狙い通り、昨日と同じ、鱗に覆われた魚型の個体が現れた。


「お願いします」


「はい」


継刃を抜き、鰭の付け根を、正確に捉える。


一撃で、絶命する。


「......あれ」


「どうしました?」


「......何も、感じません」


全員が、顔を見合わせた。


「もう一度、試してみましょう」


少し進んだ先で、また同じ個体に遭遇する。


同じように、一撃で仕留める。


だが、やはり、何も起こらなかった。


「......変だな」


モリソンが、腕を組んで唸る。


「昨日は、確かにあったんだろう?」


「はい。同じ個体のはずなんですけど」


「仮説、外れたか」


相馬が、腕組みしたまま資料を睨む。


「いや、待て。もう少し、条件を整理しよう」


その後も、洞窟の区域で、昨日仕留めたのと同じ、四足の個体に遭遇した。


仕留める。


何も、起きない。


「......これで三回連続、無反応です」


ハートが、渋い顔で記録をつける。


「昨日の三回は、確実にあった現象なのに」


「もしかして」


ソジュンが、恐る恐る手を挙げる。


「単純に、確率的なものだったんじゃないですか? たまたま昨日、三回とも起きただけで」


「その可能性も、ゼロじゃないな」


モリソンが、頷く。


その日の探索は、結局、あの感覚が一度も起きないまま終わった。


控室に戻り、皆、少し重い空気の中で、資料を見比べていた。


「一度、整理しましょう」


ハートが、二日分の記録を並べる。


「一日目に感覚があったのは、魚型、四足型、そして小型の群れの個体。いずれも、あの層で初めて遭遇した種類です」


「今日、感覚がなかったのは」


「全て、昨日既に仕留めたことのある、同じ種類の個体です」


その言葉に、部屋の空気が、静かに変わった。


「......まさか」


自分は、思わず声を上げた。


「初めて斬った時だけ、なのか?」


「その可能性は、十分にあります」


ハートが、慎重に頷く。


「もう一度、検証しましょう。ただし今度は、まだ遭遇していない、新しい種類の個体を、意図的に探します」


「賛成だ」


相馬が、資料をまとめる。


翌日、三日目。


これまで足を踏み入れていなかった、十二層の奥の区画へ進む。


やがて、これまで見たことのない、大きな甲殻を持つ個体が現れた。


「初見だな」


モリソンが、緊張した声で言う。


「神崎、頼む」


継刃を抜き、甲殻の継ぎ目を狙って、正確に刃を通した。


「......来ました」


あの感覚。


刃を通して、確かに、何かが流れ込んでくる。


「やっぱりだ」


ハートが、興奮した様子で記録を取る。


「初めて仕留めた種類の時だけ、その現象が起きています。二度目以降は、起きません」


「つまり」


相馬が、慎重に言葉を選ぶ。


「その刀は、新しい種類の敵を仕留めた時に、何かを――吸収している、ということか」


「何かを、というのは、具体的には」


「そこまでは、まだ分からん」


相馬が、正直に答える。


「魔力なのか、その生物特有の性質なのか。あるいは、両方なのか」


「見た目や、動きに、目立った変化は」


「今のところ、ない」


自分は、腰の継刃を、そっと抜いてみる。


赤みを帯びた断面が、静かに輝いている。


何かが、確かに、この刀の中に積み重なっている。


でも、それが、どんな形で表れるのかは、まだ、誰にも分からなかった。


「一つ、確かなことがあります」


ハートが、資料を閉じながら言う。


「この刀は、まだ、成長の途中にある、ということです」


その言葉に、なぜか、胸の奥が熱くなった。


単なる道具ではなく、まるで、共に歩んできた相棒のように。


「......そうかもな」


小さく呟いて、刀を鞘へ戻す。


まだ、全ての謎が解けたわけじゃない。


でも、これまで一人で抱えてきた違和感が、初めて、はっきりとした形を持ち始めていた。


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