3-20:初めての一撃だけ
合同探索、二日目。
「今日は、意図的に検証を進めましょう」
ハートが、昨日の記録をまとめた資料を広げながら言う。
「同じ種類の個体を、複数回、神崎さんに仕留めてもらいます。もし仮説通りなら、毎回、あの感覚があるはずです」
「分かりました」
十一層、昨日通った水域近く。
狙い通り、昨日と同じ、鱗に覆われた魚型の個体が現れた。
「お願いします」
「はい」
継刃を抜き、鰭の付け根を、正確に捉える。
一撃で、絶命する。
「......あれ」
「どうしました?」
「......何も、感じません」
全員が、顔を見合わせた。
「もう一度、試してみましょう」
少し進んだ先で、また同じ個体に遭遇する。
同じように、一撃で仕留める。
だが、やはり、何も起こらなかった。
「......変だな」
モリソンが、腕を組んで唸る。
「昨日は、確かにあったんだろう?」
「はい。同じ個体のはずなんですけど」
「仮説、外れたか」
相馬が、腕組みしたまま資料を睨む。
「いや、待て。もう少し、条件を整理しよう」
その後も、洞窟の区域で、昨日仕留めたのと同じ、四足の個体に遭遇した。
仕留める。
何も、起きない。
「......これで三回連続、無反応です」
ハートが、渋い顔で記録をつける。
「昨日の三回は、確実にあった現象なのに」
「もしかして」
ソジュンが、恐る恐る手を挙げる。
「単純に、確率的なものだったんじゃないですか? たまたま昨日、三回とも起きただけで」
「その可能性も、ゼロじゃないな」
モリソンが、頷く。
その日の探索は、結局、あの感覚が一度も起きないまま終わった。
控室に戻り、皆、少し重い空気の中で、資料を見比べていた。
「一度、整理しましょう」
ハートが、二日分の記録を並べる。
「一日目に感覚があったのは、魚型、四足型、そして小型の群れの個体。いずれも、あの層で初めて遭遇した種類です」
「今日、感覚がなかったのは」
「全て、昨日既に仕留めたことのある、同じ種類の個体です」
その言葉に、部屋の空気が、静かに変わった。
「......まさか」
自分は、思わず声を上げた。
「初めて斬った時だけ、なのか?」
「その可能性は、十分にあります」
ハートが、慎重に頷く。
「もう一度、検証しましょう。ただし今度は、まだ遭遇していない、新しい種類の個体を、意図的に探します」
「賛成だ」
相馬が、資料をまとめる。
翌日、三日目。
これまで足を踏み入れていなかった、十二層の奥の区画へ進む。
やがて、これまで見たことのない、大きな甲殻を持つ個体が現れた。
「初見だな」
モリソンが、緊張した声で言う。
「神崎、頼む」
継刃を抜き、甲殻の継ぎ目を狙って、正確に刃を通した。
「......来ました」
あの感覚。
刃を通して、確かに、何かが流れ込んでくる。
「やっぱりだ」
ハートが、興奮した様子で記録を取る。
「初めて仕留めた種類の時だけ、その現象が起きています。二度目以降は、起きません」
「つまり」
相馬が、慎重に言葉を選ぶ。
「その刀は、新しい種類の敵を仕留めた時に、何かを――吸収している、ということか」
「何かを、というのは、具体的には」
「そこまでは、まだ分からん」
相馬が、正直に答える。
「魔力なのか、その生物特有の性質なのか。あるいは、両方なのか」
「見た目や、動きに、目立った変化は」
「今のところ、ない」
自分は、腰の継刃を、そっと抜いてみる。
赤みを帯びた断面が、静かに輝いている。
何かが、確かに、この刀の中に積み重なっている。
でも、それが、どんな形で表れるのかは、まだ、誰にも分からなかった。
「一つ、確かなことがあります」
ハートが、資料を閉じながら言う。
「この刀は、まだ、成長の途中にある、ということです」
その言葉に、なぜか、胸の奥が熱くなった。
単なる道具ではなく、まるで、共に歩んできた相棒のように。
「......そうかもな」
小さく呟いて、刀を鞘へ戻す。
まだ、全ての謎が解けたわけじゃない。
でも、これまで一人で抱えてきた違和感が、初めて、はっきりとした形を持ち始めていた。




