3-19:合同探索、開始
「――というわけで、本日から、国際共同探索団による調査を開始します」
十一層、入り口付近。
自分の声に合わせて、配信のコメント欄が、一気に加速する。
『ついに始まった』
『刀オタクさん、今回は国際色豊かだな』
『ライフル狂とか建築様式解説の人とか、まさか本人が同じチームにいるとは』
モリソン、ハート、ソジュン、そして自分。
相馬を含めた五人での編成だった。
「水音がする」
先頭を歩くモリソンが、銃を構えたまま、小さく呟く。
通路の先が開け、地底湖のような、広大な水域に出た。
「水辺の環境か」
相馬が、周囲を警戒しながら言う。
「ハート、地形の記録を」
「はい」
ハートが、手早くスケッチと写真を撮っていく。
水面が、不自然に波打った。
「来るぞ」
水中から、鱗に覆われた大型の魚型の個体が、飛び出してくる。
「僕がやります!」
ソジュンが、軽やかに岩を蹴って跳躍し、短剣で側面を斬りつける。
浅い傷。
だが、致命傷には至らない。
「硬いな、鱗が」
「関節、というか、鰭の付け根が薄いです」
自分は、既に個体の構造を読み取っていた。
「神崎、頼む」
相馬の合図で、前へ出る。
継刃を抜き、跳ねる個体の動きに合わせて、鰭の付け根へ、正確に刃を通した。
一撃で、絶命する。
その瞬間。
「......っ」
あの感覚が、また来た。
刃を通して、何かが流れ込んでくる。
今度は、いつもより、はっきりとした感触だった。
「神崎さん、大丈夫ですか?」
ハートが、心配そうに声をかける。
「あ、はい。......ちょっと、変な感じがしただけで」
刀身を見る。
赤みを帯びた断面が、心なしか、いつもより深い色に見えた。
「変な感じ?」
モリソンが、興味深そうに近づいてくる。
「その刀、ずっと気になってたんだが」
「実は、時々、こういう感覚があって」
これまでのことを、かいつまんで説明する。
「へえ」
モリソンが、腕を組んで唸る。
「俺の勘だが、その刀、何かを吸い取ってるんじゃないか」
「吸い取る?」
「魔力とか、その生物の特性とか、そういうもんをだ」
軽い口調だったが、妙に説得力があった。
「面白い仮説ですね」
ハートが、資料を取り出す。
「もしそうなら、記録を取っておくべきです。今日、何を斬った時に、その感覚があったか」
「賛成です」
自分も頷いた。
これまで、佐伯や江藤に相談しても、答えが出なかった疑問。
だが、様々な種類の敵と対峙する今回の探索では、何か違う結果が見えるかもしれない。
「よし、次行くぞ」
相馬の号令で、探索が再開される。
水域を抜け、洞窟のような、岩肌に覆われた区域に入ると、今度は、四足歩行の、爬虫類に似た個体が現れた。
先ほどとは、全く違う体つき。
継刃で仕留めた瞬間、また、あの感覚が来た。
「今度も、来ました」
「二回目か」
ハートが、素早くメモを取る。
「共通点は、両方とも、神崎さんが、とどめを刺した個体だということですね」
「言われてみれば」
これまで、天音と一緒にいた時、そして今回。
共通しているのは、自分自身が、直接、継刃で仕留めた瞬間、ということだった。
開けた広間に出ると、今度は、複数の小型の個体の群れが現れた。
相馬とモリソンが銃で牽制し、ソジュンが素早く距離を詰めて数体を斬り伏せる。
残った一体を、自分が継刃で仕留めた。
「......来ました。また」
「三回目、か」
相馬が、興味深そうに刀身を覗き込む。
「はっきりとした変化は、目には見えんな」
「でも、感覚だけは、確実にあります」
「面白いな」
モリソンが、笑いながら肩を叩いてくる。
「まるで、伝説の妖刀だな」
「そこまでのものじゃ、ないと思いますけど」
「分からんぞ。世界には、魔法まで現れ始めてるんだ。刀に不思議な力があっても、驚くようなことじゃない」
その言葉に、少しだけ、胸が高鳴った。
これまで、気のせいで片付けていたことが、今日一日だけで、確かな手応えに変わりつつある。
「今日の探索は、ここまでとする」
相馬の号令で、地上へ戻る準備が始まる。
「神崎さん」
ハートが、記録用の資料を見せてくる。
「今日確認できた事例、全部で三回。いずれも、あなたが継刃で、直接とどめを刺した瞬間に発生しています」
「はい」
「これ、偶然とは思えません。もう少し、事例を集めれば、はっきりした傾向が見えてくるはずです」
その言葉に、迷いはなかった。
これまで、一人で抱えてきた疑問が、ようやく、仲間と共に確かめられる段階に来ている。
「明日も、よろしくお願いします」
「もちろんです」
地上へ戻る通路を歩きながら、腰の継刃に、そっと手を添える。
まだ、全てが分かったわけじゃない。
でも、確実に、答えへ近づいている実感があった。




