3-17:世界からの招待状
その日、届いたメールの件名を見て、思わず二度見した。
**件名:国際共同探索団への参加打診について**
「......は?」
配信の準備中だったのも忘れ、椅子から身を乗り出す。
開いてみると、内容は、想像していたよりもずっと大きな話だった。
**神崎錬司様**
**このたび、アメリカ、イギリス、韓国の三カ国と、国際共同探索団を編成する運びとなりました。**
**つきましては、日本側の中心的な役割を担っていただける探索者として、貴殿に正式に参加をお願いしたく、ご連絡差し上げております。**
「......国際、共同......」
声に出して、何度も読み返す。
三カ国。
共同探索団。
日本側の、中心。
「いや、規模でかすぎるだろ」
思わず、独り言が漏れた。
資料には、参加予定国の探索者の簡単なプロフィールも添えられていた。
アメリカからは、退役軍人出身の、ベテラン探索者。
イギリスからは、考古学専攻の大学院生。
韓国からは、機動力に定評のある若手。
どの国も、それぞれの色を持つ、実力者たちだった。
すぐに、佐伯に電話をかけた。
「師匠、大変なことになりました」
『どうした』
「国際共同探索団、参加してくれって、政府から正式に連絡が」
電話の向こうで、少しの沈黙。
『......ほう』
「師匠のところにも、何か来てませんか」
『いや、わしのところには来とらん。今回は、若い者中心の編成らしいな』
「そうなんですね」
少し寂しさもありつつ、それは仕方ないと思う。
実際、体力面も含めて、国際的な調査団という規模の探索には、色々な条件があるのだろう。
『どうする気じゃ』
「......受けようと思います」
迷いは、そこまでなかった。
「他の国の探索者と、一緒に潜れる機会なんて、そうそうないですし」
『それだけか』
「......それだけじゃ、ないです」
正直に、答える。
「色んな種類の敵と、継刃で対峙できる機会でもあるので」
あの、時々感じる、奇妙な感覚。
今まで、日本のダンジョンの、限られた層でしか確かめられなかったことが、もっと広い視野で見られるかもしれない。
『やっぱり、そこか』
佐伯が、電話越しに笑う声が聞こえた。
『お主らしいわ』
「変ですかね」
『いや、いい心構えじゃ。せっかくの機会、しっかり活かしてこい』
「はい」
『それと』
「はい」
『天音さんにも、伝えておいた方がええんじゃないか』
「あ......」
言われて、初めて気づいた。
彼女の魔法の実地訓練に、しばらく付き合えなくなるかもしれない。
電話を切った後、すぐに天音へメッセージを送った。
『すみません、実は急な話なんですけど』
事情を説明すると、しばらくして返信が来た。
『......国際共同探索団、ですか』
『はい』
『すごいじゃないですか。おめでとうございます』
『訓練の付き添い、しばらくできなくなるかもしれないので、すみません』
『気にしないでください。私も、その間は、他の研究班の方と、地道に続けます』
少し安心する。
でも、続けて届いたメッセージに、また少しだけ、胸がざわついた。
『無理だけは、しないでくださいね』
『あの日みたいに、また誰かを庇って、無茶しないように』
『......善処します』
『善処、じゃなくて、約束してください』
押しの強い言葉に、思わず苦笑する。
『分かりました。約束します』
『はい。それでいいです』
スマホをしまい、改めて、資料を読み返す。
参加期間、装備要件、配信管理の方針。
細かい条件が、いくつも並んでいる。
だが、それら全てを差し引いても、心の中にあるのは、単純な高揚感だった。
世界中の探索者たちと、肩を並べて潜る。
様々な敵と、継刃で向き合う。
その先に、何が見えてくるのか。
「......よし。」
返信フォームを開き、参加承諾の欄に、名前を書き込む。
**神崎錬司**
送信ボタンを押す指に、迷いはなかった。
友人にも、後で報告しなければ。
きっと、また大袈裟にからかわれるだろう。
でも、それも含めて、今は素直に嬉しかった。
窓の外、夕暮れの空を見上げながら、腰の継刃に、そっと手を添える。
「......お前の秘密、少しずつでも、暴いてやるからな」
誰にともなく、そう呟いた。
新しい仲間たちと、新しい謎への旅が、もうすぐ始まろうとしていた。




