表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第三章:ファンタジー
84/94

3-16:共同探索団

「総理、アメリカ、イギリス、韓国、三カ国それぞれから、正式な打診が届いています」


執務室に入ってきた外務担当の職員が、分厚い書類の束を差し出した。


九条恒一は、資料を受け取りながら、先日の会談を思い出す。


あの日、話題に上った、探索者同士の国際交流。


その具体案が、思ったより早く、形になって戻ってきたらしい。


「内容は」


「はい。三カ国とも、ほぼ同じ趣旨です。我が国のダンジョンにおいて、共同での探索調査団を編成し、各国から選抜した探索者を派遣したい、と」


「目的は」


「表向きは、技術交流と、生態系データの共有です。ただ」


職員が、少し声を落とす。


「本音の部分では、各国とも、我が国の対応実績――特に、魔素関連のデータや、上位個体への対処法について、直接的な知見を得たい意図があると見られます」


九条は、資料をめくった。


三カ国の提案書には、それぞれ、色が滲んでいた。


アメリカは、実戦経験の豊富な退役軍人系の探索者を中心とした、大所帯の編成案。


イギリスは、少数精鋭、学術的な観点を重視した編成案。


韓国は、機動力と情報収集能力に長けた、若手中心の編成案。


「率直な感想を聞きたい。受け入れるべきだと思うか」


「個人的には、賛成です」


職員が答える。


「我が国だけでは気づけない視点や、他国が独自に積み上げてきたノウハウを、直接学べる機会になります」


「リスクは」


「もちろん、あります。特に、未探索区画の情報を、他国に開示することへの慎重論は、防衛省からも上がっています」


九条は、腕を組んだ。


半年前なら、もっと慎重に検討したかもしれない。


だが、この半年で、この国は、多くの前例のない決断を、着実に積み重ねてきた。


「有識者委員の意見も、聞いておきたい」


「既に、招集の準備をしております」


その日の午後、いつもの四人が、会議室に集まった。


「共同探索団、という発想自体は、悪くないと思います」


黒沢玲が、資料に目を通しながら言う。


「TRPGでも、異なる技能を持つプレイヤー同士が組むことで、単独では見えない攻略の糸口が見つかることは、よくあります」


「同感です」


南一颯が続ける。


「ただし、編成には注意が必要です。文化も、戦闘スタイルも違う探索者同士が、いきなり連携するのは、簡単ではありません」


「訓練期間を設けるべき、ということだな」


「はい。それと」


南が、少し言葉を選びながら続ける。


「配信についても、方針を固めておくべきかと。各国の探索者が、それぞれの国のスタイルで発信すれば、情報の齟齬や、無用な競争意識を生む可能性があります」


「一括した配信管理体制が、必要ということですね」


九十九蒼が頷く。


「それと、これは提案なのですが」


「なんだ」


「日本側の代表として、経験豊富で、かつ他国からも一定の知名度がある探索者を、中心に据えるべきだと思います」


九条の脳裏に、すぐに一人の顔が浮かんだ。


だが、あえて聞いてみる。


「候補は」


「神崎錬司くん、が適任かと」


東雲環が、はっきりと言った。


「彼の名前は、既に各国の配信文化にも影響を与えています。アメリカの退役軍人系配信者も、イギリスの学生配信者も、彼のスタイルを参考にしていると聞きます」


「本人の意向は、確認していないが」


「そこは、丁寧に打診すべきかと」


九条は、資料に目を落とした。


あの青年が、国際的な調査団の中心を担う。


半年前には、想像もしていなかった展開だった。


「もう一つ、気になる点があります」


黒沢が、真剣な顔で言う。


「彼の刀――継刃について、以前から気になっていたのですが」


「刀が、どうかしましたか」


「実物は見ていないので、あくまで印象なのですが。彼が仕留めた個体の映像を見返すと、時折、刃の色合いに、微妙な変化があるように見える瞬間があります」


「気のせいでは」


「かもしれません。ですが、もし本当に、あの刀に何らかの特殊な性質が備わっているのなら」


黒沢が、続ける。


「様々な種類の敵と対峙する、今回のような共同調査は、その性質を明らかにする、又とない機会になるかもしれません」


九条は、少し興味を引かれた。


(あの刀に、何かあるのか)


半年前、あの懇談会で、初めて手に取らせてもらった、あの一振り。


今、目の前で語られる可能性が、当時とは、また違う重みを持って響いた。


「分かった」


九条は、静かに頷いた。


「三カ国の提案を、正式に受け入れる方向で調整を進めてくれ。編成は、各国の代表と協議しながら決める。そして」


「はい」


「日本側の中心人物として、神崎くんに、正式な打診を行ってくれ。あくまで、本人の意向を最優先に」


「かしこまりました」


「配信管理については、南くんと黒沢くんが中心となって、統一の方針を策定してほしい」


「承知しました」


会議が終わり、九条は一人、窓の外を見た。


あの門の方角。


これから、様々な国の探索者たちが、この国のダンジョンに集うことになる。


そして、その中心に、あの青年が立つことになるかもしれない。


(不思議な巡り合わせだな)


半年前、資料の隅に見つけた、一つの名前。


それが今、世界を繋ぐ、一つの結び目になろうとしていた。


「総理」


秘書官が、静かに声をかける。


「打診の件、いつ頃、本人に伝えましょうか」


「なるべく早く。だが、丁寧に、な」


九条は、小さく笑った。


「あの青年に、無理強いだけは、したくない」


窓の外、夕暮れの空が、静かに色を変えていった。


新しい物語の、また一つの扉が、静かに開かれようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ