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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第三章:ファンタジー
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3-14:気のせい、かもしれない

あの感覚が、頭から離れなかった。


継刃で何かを斬った時に、時々感じる、あの流れ込むような感触。


「......よし、今日で白黒つけよう」


休みの日、一人で三層に潜り、意図的に何度も敵を斬ってみることにした。


一匹目。


いつも通りの手応え。


二匹目。


......何も感じない。


三匹目。


「......あれ?」


拍子抜けするほど、普通だった。


あの日、天音と一緒にいた時に感じた、あの流れ込むような感覚は、一切なかった。


「気のせいだった、のか?」


結局、その日は何十匹と斬っても、二度とあの感覚は訪れなかった。


配信の後、佐伯の工房に立ち寄り、事情を話してみた。


「そういう感覚か」


佐伯は、継刃を受け取り、光にかざしながら、じっくりと確かめる。


「......色味は、いつも通りに見えるな」


「そうですよね」


「重さも、変わっとらん。刃こぼれもない」


佐伯は、何度も刀身を返しながら、首を捻った。


「わしの目じゃ、何も変わっとらんように見える」


「気のせいってことですか」


「かもしれん。あるいは」


「あるいは?」


「お主自身の体調とか、気分の問題かもしれん。斬った瞬間の集中具合とか」


言われてみれば、あの時は、天音の前で格好つけていた自覚もある。


変に気負って、感覚が過敏になっていただけかもしれない。


「江藤先生にも、一応相談してみるか」


「はい」


後日、大学の研究室を訪ねた。


「面白い話ですね」


江藤は、継刃を丁寧な手つきで検査器具にかけながら言った。


「成分分析上は、以前と大きな変化は見られません。核の欠片も、安定した状態を保っています」


「じゃあ、やっぱり気のせいですかね」


「断定はできません」


江藤が、慎重に言葉を選ぶ。


「ただ、現在の分析技術で検出できないほど、微弱な変化が起きている可能性も、否定はできません」


「......曖昧ですね」


「正直に言えば、そうです。魔素という現象自体、まだ全容が解明されていませんから」


その言葉に、少し安心もした。


自分の勘違いだと断言されるより、可能性を残してもらえる方が、なんとなく落ち着く。


「もし、また同じ感覚があったら、教えてください。その時の状況を、詳しく記録しておくと参考になります」


「分かりました」


工房への帰り道、継刃を、そっと鞘の上から触れてみる。


いつも通りの感触。


特別なものは、何もない。


「......まぁ、いいか」


結論を急ぐ必要はない。


もし本当に、この刀が何かを持っているのだとしても、それが分かる日が、いつか来るだろう。


今は、ただの気のせいかもしれない。


あるいは、まだ目覚めきっていない何かの、最初の兆しかもしれない。


どちらであっても、答えを焦る理由はなかった。


この刀と共に、まだまだ長い道のりを歩いていく。


その中で、いずれ、はっきりと分かる時が来るはずだ。


夕暮れの空の下、継刃を腰に差し直し、静かに歩き出した。


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