表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第三章:ファンタジー
81/115

3-13:実地訓練

「今日は、よろしくお願いします」


封鎖区域の入り口で、天音澪が、丁寧に頭を下げた。


「こちらこそ。まぁ、俺で役に立てるかは分かんないですけど」


「十分すぎます。魔素の濃い層で、実際に力を試すの、正直、まだ怖くて」


彼女の魔法発現から、一ヶ月。


研究施設での訓練だけでなく、実際のダンジョン内で、より実践的な検証を行うことになった。


その付き添い役に、自分が選ばれた。


理由は単純で、あの日、彼女を庇った実績があるから、らしい。


「一層と二層は、勝手知ったる場所ですから。何かあれば、すぐ対応できます」


「頼りにしてます」


彼女が、少し照れくさそうに笑う。


通路を進みながら、天音が、水筒の水を手のひらに垂らす。


「これくらいの量なら、割と自由に動かせるようになりました」


水滴が、彼女の手のひらの上で、小さく渦を巻く。


「おお」


「まだ、これくらいですけどね」


「十分すごいですよ」


素直な感想だった。


人が、水を意のままに操っている。


それだけで、目の前の光景が、非現実的に感じられる。


「神崎さんは、私がこうなった時、驚きませんでした?」


「めちゃくちゃ驚きました」


「でも、応援してくれましたよね。すぐ」


「そりゃ、応援しますよ。天音さんが頑張って掴んだ力なんですから」


何気なく答えると、天音が、少しの間、こちらを見つめていた。


「......神崎さんって、そういうところ、ずるいです」


「え、なんでですか」


「なんでもないです」


はぐらかされた。


よく分からないまま、探索を続ける。


「あの日も」


天音が、ぽつりと言う。


「あの鬼の前で、私を庇ってくれた時。怖かったはずなのに、迷いがなかったですよね」


「怖かったですよ、めちゃくちゃ」


「でも、動いた」


「体が勝手に動いた、が正しいです」


「それでも」


天音は、少し俯いた。


「あの時、助けてもらった恩、まだちゃんと返せてない気がして」


「返してもらう必要、ないですよ」


「それでも、です」


まっすぐな目で、そう言われる。


なんだか、いたたまれなくなって、視線を逸らした。


「あ、天音さん。前方、反応あります」


通路の先、小型の生物が姿を現す。


二層でよく見かける、犬型の個体だった。


「私が、やってみます」


天音が、手をかざす。


近くの水たまりから、水が浮かび上がり、細い刃のような形になる。


だが、集中が乱れたのか、途中で形が崩れ、地面に落ちてしまった。


「......すみません、まだ実戦だと」


「大丈夫です、俺が」


継刃を抜き、前へ出る。


一撃で、生物を仕留める。


その瞬間だった。


「......ん?」


刃を通して、何か、奇妙な感覚が流れ込んできた。


温かい、というより。


何かが、流れ込んでくるような。


「神崎さん?」


「あ、いえ。なんでもないです」


誤魔化しながら、刀身を見る。


赤みを帯びた断面が、心なしか、いつもより鮮やかに見えた。


「......気のせい、か」


小さく呟いて、刀を鞘に収める。


「今の、綺麗な動きでしたね」


天音が、感心したように言う。


「一瞬で終わりました」


「まぁ、慣れてるので」


「私も、いつかそのくらい、自然に力を使えるようになりたいです」


その言葉には、憧れが滲んでいた。


あの日、自分が守られる側だったことを、彼女はずっと悔しく思っていたのかもしれない。


「大丈夫ですよ。天音さんの成長、めちゃくちゃ早いです」


「そう、ですか」


「はい。俺なんて、槌の振り方覚えるのに何年もかかったのに」


冗談交じりに言うと、天音が、ふっと笑った。


「変な励まし方ですね」


「よく言われます」


二人で笑い合いながら、また通路を進む。


だが、自分の意識の片隅には、先ほどの感覚が、まだ残っていた。


刃を通して、何かが流れ込んでくる、あの感触。


(継刃、ちょっと変わったか?)


気のせいだと、片付けるには。


どこか、引っかかるものがあった。


その日の訓練は、無事に終わった。


地上へ戻る道すがら、天音が、ふと足を止める。


「神崎さん」


「はい」


「今日、付き添ってくれて、ありがとうございました」


「いえ、これくらい」


「本当に。......いつも、ありがとうございます」


その笑顔に、少しだけ、いつもと違う何かを感じた。


でも、それが何なのか、うまく言葉にできない。


「......また、次回もお願いしていいですか」


「もちろんです」


夕暮れの空の下、二人並んで、封鎖区域を後にした。


腰の継刃が、まだ、微かに熱を持っているような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ