3-8:職人たちの舞台
ローマ、封鎖区域。
首相・ロレンツォ・ヴィスコンティは、集まった探索者たちの中に、見慣れた顔がいくつか混じっていることに気づいた。
「南部の職人たちも、来ているのか」
「はい」
側近が答える。
「刃物職人、皮革職人、それぞれの技術を、実地で確かめたいという申し出がありました」
「頼もしい話だ」
ヴィスコンティは、壇上に立つ。
「本日、我が国は、正式な一般開放を迎える」
声を張る。
「政権基盤の弱さは、この国の宿命かもしれない。だが、国民の安全という一点において、我々は、かつてないほど一つになれた」
拍手の中には、普段対立する会派の議員たちの姿もあった。
「南北の格差是正も、この機に、着実に進めていく。この国の誰もが、等しく新しい時代の恩恵を受けられるように」
式典を終え、探索者たちが、それぞれの覚悟を胸に、封鎖線を越えていく。
「首相、配信の状況ですが」
「聞こう」
「職人技を前面に出したチャンネルが、既にいくつか立ち上がっています。皮革加工の過程を実況するものや、刃物の目利きを解説するものなど」
「日本の刀オタク氏の影響か」
「間違いなく。彼の配信スタイルが、世界中の職人気質の探索者たちに、一つのモデルケースを示した形です」
ヴィスコンティは、小さく笑った。
「悪くない。この国の職人たちにも、輝ける舞台ができたということだ」
「魔素の研究については」
「北部の産業界と連携した分析チームが、着実に成果を上げています。知覚変化の報告例も、増加傾向です」
「発現の兆候は」
「まだ、確認されていません」
「それでいい。焦らず、着実に」
ヴィスコンティは、窓の外、ローマの空を見上げた。
「この国は、これまで、多くのものを積み重ねてきた。芸術も、職人技も、料理も」
「はい」
「その積み重ねが、こういう形で花開くとはな」
政権基盤は、相変わらず不安定なままだ。
だが、少なくとも、今日という日は、国民全員が、同じ方向を向いていた。
「よし」
ヴィスコンティは、静かに頷いた。
「我が国なりの美しさで、この新しい時代を歩んでいこう」
派手さはなくとも、確かな誇りを持って。
イタリアもまた、新しい一歩を踏み出していた。




