3-5:広大な国の一歩
オタワ、議事堂。
首相・ジャック・ルモンドは、地図に描かれた、いくつもの印を見つめていた。
「本日、開放対象となる地点は」
「まず、都市近郊の三箇所からです。北部の遠隔地については、先住民族の方々との協議が完了した箇所から、順次拡大していく方針です」
防衛担当大臣が答える。
「全面開放ではない、ということだな」
「はい。ですが、これは後退ではなく、我が国なりの誠実な進め方だと考えています」
ルモンドは、頷いた。
「先住民族の代表団からは、何か」
「立ち会いの意向をいただいています。彼らの土地に関わる歪みについては、共同管理という形での参加を望まれています」
「それは、ぜひ実現させてくれ。この国は、そういう積み重ねの上に成り立っている」
「かしこまりました」
式典の会場には、都市部から集まった、比較的少数の探索者たちの姿があった。
「静かな船出だな」
「はい。ですが、堅実です。初日の登録数は、想定の範囲内に収まっています」
「配信文化については」
「アウトドア系、サバイバル系の既存配信者が、続々と参入し始めています。我が国の広大な自然を舞台にしてきた彼らにとって、親和性が高いようです」
ルモンドは、小さく笑った。
「この国らしい、地に足のついた形だな」
「魔素の観測データについては、日本、アメリカからも、資料提供を受けています。国内での知覚変化の報告例も、少しずつ増えています」
「発現までは」
「至っていません」
「そうか」
ルモンドは、窓の外、まだ雪の残る景色を見た。
「焦らず、しかし着実に。この国の速度で、進めよう」
式典が終わり、探索者たちが、それぞれの目的地へ向かって出発していく。
その数は、他国に比べれば、決して多くない。
だが、一歩一歩が、確かな土台の上に築かれていた。
「首相」
補佐官が、資料を差し出す。
「北部の先住民コミュニティから、正式な感謝の声明が届いています」
「読んでくれ」
「『我々の土地の未来を、共に考えてくれたことに感謝する。この歩みを、これからも見守っていきたい』」
ルモンドは、その言葉を、静かに噛み締めた。
派手さはない。
だが、確かに、この国なりの誠実さで、新しい時代への扉が開かれていた。




