3-4:先行者の誇り
ソウル、封鎖区域。
大統領・尹秀賢は、予定より一週間早く迎えた、この日を静かに噛み締めていた。
「制度、無事に稼働しました」
科学技術担当の秘書官が、モニターを示す。
「登録者数、初日で既に想定の三倍です」
「多いな」
「ウェブトゥーンやゲームで、探索者や魔法をテーマにした作品が、ここ半年で急増していた影響もあるかと」
尹は、頷いた。
この国の強みを、そのまま制度に落とし込んだ甲斐があった。
「配信文化の広がりは」
「爆発的です。特に、ゲーム実況出身の配信者たちが、次々と参入しています。中には、既存の人気配信者が、そのまま探索者資格を取得するケースも」
「面白い流れだな」
尹は、モニターに映る映像を見つめた。
ヘルメットにカメラを付けた探索者たちが、次々と門へ向かって進んでいく。
「日本の刀オタク氏のような、圧倒的な存在感を持つ配信者は」
「まだ現れていません。ですが」
秘書官が、少し声を弾ませる。
「今日だけで、新規配信者の登録が、二千件を超えています。この中から、いずれそういう存在が現れるかもしれません」
「楽しみだな」
尹は、小さく笑った。
半年前、隣国への対抗心から、急いで動いた部分もある。
だが、今この光景を見ていると、単なる対抗心以上の、確かな手応えを感じた。
「魔素についての、国内の研究状況は」
「サンプル分析は、日本の協力もあり、大幅に進んでいます。探索者の中に、知覚の変化を訴える者も、複数確認されています」
「発現例は」
「まだ、確認されていません」
尹は、頷いた。
焦る必要はない。
この国は、この国の速度で、着実に前へ進んでいる。
「日本との協力関係については、今後どうする」
「研究データの共有は、既に非公式なルートで進んでいます。正式な枠組みについては、外務省が調整に入っています」
「早めに進めてくれ。こういう時こそ、隣国同士、手を取り合うべきだ」
「かしこまりました」
尹は、窓の外、封鎖線を越えていく探索者たちの列を見つめた。
この国にとっての、新しい時代の始まり。
誰もが、期待と緊張の入り混じった顔で、あの門へ向かっていく。
「よし」
小さく呟く。
「隣に負けじと、我々も、いい国を作ろう」
対抗心ではなく、確かな誇りを胸に、韓国もまた、新しい一歩を踏み出していた。




