間章-16:党派を超えて
ローマ、キージ宮。
首相・ロレンツォ・ヴィスコンティは、珍しく、閣議の場で野党側からの拍手を受けていた。
「......こんな日が来るとはな」
会議室を出ながら、思わず苦笑する。
「政権基盤の不安定さは、相変わらずですが」
側近が、同じく苦笑しながら言う。
「今回ばかりは、全会派が同じ方向を向きました」
「日本の一件のおかげ、というわけだ」
ヴィスコンティは、資料を手に取った。
鬼と魔素。
国民の安全に直結する話題に、党派対立の余地はなかった。
「南部の職人たちの動員準備は」
「進んでいます。皮革、刃物、ガラス細工。各分野の熟練者たちに、正式な打診を始めています」
「反応は」
「概ね、好意的です。中には、既に日本の探索者たちの装備を、独自に研究し始めている者もいるとか」
ヴィスコンティは、小さく笑った。
「職人魂、というやつだな」
「北部の産業界からも、素材研究への協力の申し出が相次いでいます」
「政権基盤の弱さは、変わらん。だが」
ヴィスコンティは、窓の外、ローマの街並みを見た。
「国が一つにまとまれる話題があるなら、それを最大限に活かすべきだろう」
「制度設計のスケジュールは」
「これまでの慎重論は、もう通用しない。魔素の件を受け、前倒しで進める」
「南北の予算配分についても」
「均等にはできんが、可能な限り公平に。この機に、地域格差の是正にも、繋げたい」
欲張りな考えかもしれない。
だが、危機は、時に、これまで動かなかったものを動かす力になる。
「日本や、他の先行国の動きは、引き続き注視しつつ、我が国なりの速度で進めよう」
「かしこまりました」
「それと」
ヴィスコンティは、少しだけ表情を緩めた。
「南部の職人たちに、いずれ、日本の刀鍛冶のような存在になれる日が来る、と伝えておいてくれ」
「はい」
「派手さはなくとも、我々には、積み重ねてきたものがある」
その言葉は、この国全体への、静かなエールでもあった。




