間章-15:魔法という再解釈
パリ、エリゼ宮。
大統領・フィリップ・ロシュフォールは、日本から届いた分析資料――魔素についての報告書を、じっくりと読み込んでいた。
「率直な感想を、お聞かせいただけますか」
文化担当大臣が、静かに尋ねる。
「......興奮している、というのが、正直なところだ」
ロシュフォールは、資料を置いた。
「我々は、これまで、独自の哲学と文学の蓄積から、この現象に向き合うと言い続けてきた」
「はい」
「魔素、そして魔法という可能性。これは、まさに、我が国が何百年も紡いできた、幻想文学の系譜そのものだ」
彼の声には、隠しきれない高揚があった。
「ジュール・ヴェルヌが夢見た科学。中世の吟遊詩人が語った魔法。それらが、絵空事ではなく、現実の研究対象になろうとしている」
「では、方針は」
「加速する」
ロシュフォールは、迷わず答えた。
「これまでの、慎重な検討は、無駄ではなかった。だが、悠長に構えていい局面は、もう過ぎた」
「制度設計についても」
「日本の骨格を土台にしつつ、我が国独自の哲学的、文学的視座を組み込む。文学者、哲学者に加え、今回の件を受けて、科学者との連携も、より密にする」
「労働組合との協議は」
「当然、継続する。危険な仕事だからこそ、権利の保障は疎かにできない」
この国らしい、譲れない一線だった。
「魔素の影響を受けた市民への対応は」
「最優先で、医療・研究両面の体制を整えろ。もし、我が国民の中に、特別な適性を持つ者が現れるなら、その者たちを、正しく導く責任が、我々にはある」
「かしこまりました」
ロシュフォールは、窓の外、セーヌ川の夜景を見つめた。
「フランスは、猿真似はしない。だが」
「はい」
「優れたものに敬意を払い、そこに我々自身の色を重ねることを、恥じたりはしない」
その言葉には、静かな、しかし確かな誇りが宿っていた。




