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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
間章(2ー3)
64/105

間章-14:前倒しの決断

ベルリン、首相府。


首相・アンネグレート・フォスは、法務担当官僚からの報告書に、目を通していた。


「委員会の設置期間について、改めてご相談です」


「半年、という当初予定だったな」


「はい。ですが」


官僚は、慎重に言葉を選ぶ。


「日本の魔素発見と、氾濫の実例を受け、安全保障上の観点から、前倒しを求める声が、与党内でも強まっています」


「野党の反応は」


「これまで批判的だった議員の一部も、態度を軟化させています。『税金でファンタジー作家を招くとは何事か』と言っていた者たちも、さすがに、今回ばかりは」


フォスは、小さく頷いた。


「皮肉なものだな」


「と、申しますと」


「安全のための備えだと言えば、あれほど批判的だった者たちも、静かになる」


この国らしい、合理性の勝利だった。


「委員会の期間を、二ヶ月に短縮する」


「二ヶ月、ですか。かなりの前倒しになりますが」


「拙速は敵だ。だが、今の状況で怠慢もまた、敵になる」


フォスは、はっきりと言った。


「完璧を待つ余裕は、もうない。今できる、最善の速度で進める」


「創作分野の専門家委員についても」


「予定通り、正式に招く。今回の件で、彼らの知見の価値は、既に証明されている」


「かしこまりました」


「魔素の分析については」


「我が国の研究機関でも、独自にサンプル分析を進めています。人体への作用機序について、まだ不明な点は多いですが」


「経過観察の体制だけは、早急に整えろ。もし国民の中に、影響を受けた者が現れた時、対応が後手に回らないように」


「承知しました」


フォスは、窓の外、灰色の空を見た。


「拙速は敵だ、と言い続けてきた。だが」


「はい」


「今この瞬間だけは、怠慢の方が、より大きな敵だ」


その言葉には、これまでにない、確かな決意が滲んでいた。


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