間章-12:隣国の意地
ソウル、大統領府。
大統領・尹秀賢は、来週に迫った正式発表の資料を、満足げに眺めていた。
「制度案、最終確認は終わったか」
「はい」
科学技術担当の秘書官が答える。
「ウェブトゥーン作家、MMORPGの運営経験者、eスポーツの大会設計者。全員の知見を反映した、独自の制度に仕上がっています」
「日本より、目立って早いか」
「一週間ほど、先行できる見込みです」
尹は、小さく笑った。
「よし」
「隣国の意地、ということでしょうか」
「半分はな」
尹は、資料をめくりながら続けた。
「だが、それだけではない。あの、鬼と魔素の一件を見て、正直、焦りもある」
「焦り、ですか」
「もし本当に、あの未知のエネルギーが、人体に作用するのだとしたら」
尹の声が、真剣なものに変わる。
「対応が一日遅れれば、それだけ、国民が危険に晒される時間が延びる」
「うちの分析班も、独自にサンプルを収集し、同様の結論に至っています」
「詳しく」
「特定の条件下で長時間曝露した個体に、知覚や身体能力の変化が見られる可能性が高い、と」
尹は、目を閉じた。
もし、この国にも、同じ現象が起きるなら。
その受け皿を、今のうちに整えておかねばならない。
「経過観察の体制は」
「既に、医療機関と連携した枠組みを準備しています」
「よし。発表と同時に、その体制も公表しろ。国民に、無用な不安を与えないためにもな」
「かしこまりました」
「それと」
尹は、少しだけ表情を緩めた。
「日本の総理とは、一度、直接会って話してみたい。あの人の判断力は、本物だ」
「機会を設けるよう、外務省に伝えます」
「頼む」
窓の外、漢江の景色を見ながら、尹は静かに呟いた。
「隣に、いい先生がいる。それを追い越すくらいの気概で、この国も進もう」
対抗心と、確かな敬意。
その両方を胸に、韓国もまた、新しい一歩を踏み出そうとしていた。




