間章-10:追いつく国
ホワイトハウス、状況分析室。
大統領・マーカス・ウェインは、日本からの報告書を、もう三度は読み返していた。
鬼。
魔素。
単身で仲間を守り抜いた、若い探索者の姿。
「大統領、制度の最終案がまとまりました」
国防長官が、分厚い資料を手に入ってくる。
「見せてくれ」
資料に目を通す。
資格制度、素材管理、配信規則。
日本の枠組みを土台に、この国向けに再設計されたものだった。
「来月には、試験的な一般開放に踏み切れます」
「よし」
ウェインは、迷わず頷いた。
「予定通りだ。むしろ、少し早められないか」
「これ以上の前倒しは、安全管理上、推奨できません」
「......分かった。無理は言わん」
資料をめくりながら、あの映像を思い出す。
銃弾を弾く硬い皮膚。
一人で盾となった、あの青年。
「あの鬼と同じような個体が、我が国でも確認される可能性は」
「否定できません。既に、複数の観測地点で、出現率のわずかな上昇傾向が報告されています」
ウェインの表情が、引き締まる。
「開放と同時に、緊急対応部隊の編成も急げ。民間人任せにするだけでなく、いつでも支援に入れる体制を整えておく」
「かしこまりました」
「それと、あの魔素とやらの件だ」
「はい」
「うちの研究機関でも、独自に分析を進めさせろ。もし、あれが本当に人体に作用するなら――」
ウェインは、少しだけ言葉を切った。
「この国にも、いずれ同じことが起きる」
「大統領は、それを恐れておられますか」
「いや」
ウェインは、小さく笑った。
「楽しみにしている、と言った方が正しいかもしれんな」
半年前、悔しさから「追いつくぞ」と呟いた自分を思い出す。
あの頃より、今の方が、確かに前を向けている気がした。
「日本の総理とは、一度、直接話してみたいものだ」
「機会を設けましょうか」
「頼む」
窓の外、ワシントンの空は、いつもと変わらず高く晴れていた。
だが、その空の向こうに広がる世界は、半年前とは、もう別の場所になりつつあった。




