1−6:それ、本当にダンジョンなんだ
門が開いた。
そのニュースが流れた瞬間、日本中がお祭り騒ぎになった。
「やっぱりダンジョンじゃん!」
「まだ決まってないから!」
「いやどう見てもダンジョンだろ!」
「ニュース見た!?」
「見た見た!」
大学へ向かう電車の中。
聞こえてくる会話は、そればかりだった。
いやまぁ。
分かる。
俺だって昨日の映像は見た。
あれは。
「どう見てもダンジョンだったよなぁ……」
思わず口から漏れる。
石造りの門。
奥へ続く薄暗い通路。
青白い光。
ゲームでも。
漫画でも。
ラノベでも。
何回見たか分からない。
逆に、あれ以外の何なんだ。
「おはよ。」
「お、おはよ。」
教室へ入ると、みんなスマホを見ていた。
教授すら見ている。
講義前なのに。
「先生も見てるんですね。」
「気になるだろ。」
「ですよね。」
ですよね。
教授も人間だった。
「錬司。」
「ん?」
友人が椅子を回してこちらを見る。
「ダンジョンだったな。」
「だったな。」
「認める?」
「認める。」
「意外。」
「いや、あれは無理。」
さすがに否定できない。
映像を見た限り、あれを"地下鉄の入口"と言い張るのは厳しい。
「で?」
「ん?」
「お前、行くの?」
「まだ無理だろ。」
「珍しい。」
「当たり前だ。」
今は国が封鎖している。
近付くだけで警察のお世話になる。
さすがにそこまで馬鹿じゃない。
「もし一般開放されたら?」
「……」
少し考える。
そして。
「素材次第かな。」
「やっぱそこか!」
教室が笑いに包まれた。
「普通さ!」
「うん。」
「未知の世界とか!」
「うん。」
「モンスターとか!」
「うん。」
「魔法とか!」
「うん。」
「そっちじゃねぇの!?」
「いや。」
そっちも気になる。
もちろん気になる。
でも。
「一番気になるのは金属。」
「即答だった。」
「未知の金属だぞ?」
「あるかも分からんだろ。」
「でもあるかもしれない。」
「まぁ……。」
「もしさ。」
想像する。
ゲームみたいに。
魔力を通しやすい金属があって。
普通の鉄じゃ絶対に作れない刀が打てるなら。
「人生終わるな。」
「何が?」
「楽しすぎて。」
「重症だ。」
否定できない。
たぶん毎日鍛冶場に籠もる。
寝る時間も惜しんで刀を打つ。
絶対そうなる。
間違いない。
「まぁ、その前に鍛冶できる場所探さないとな。」
「今から?」
「今から。」
「気が早ぇよ!」
笑われる。
でも。
準備だけはしておいて損はない。
ダンジョンがあるなら。
いつか素材も手に入る。
その時になって慌てても遅い。
鍛冶の勉強なら、今からでもできる。
「……よし。」
帰ったらまた本読もう。
今度は熱処理じゃなくて、炉の構造について調べるか。
そんなことを考えながら席に座る。
その日の夕方。
帰宅した俺は、いつものように鍛冶動画を漁っていた。
おすすめ欄を眺めていると、一つのライブ配信が目に入る。
【緊急配信】門が開いた件について鍛冶師が思うこと【雑談】
「……鍛冶師?」
珍しい。
登録者は三万人ほど。
顔出しもしていない、小さなチャンネル。
なんとなく開いてみる。
画面の向こうで、年配の男性が静かに笑った。
『もし、本当にダンジョンなら』
『わしら鍛冶師の時代が来るかもしれんな』
「……!」
その一言だけで、胸が高鳴った。
自分と同じことを考えている人がいた。
画面越しなのに、なぜか嬉しかった。
『もっとも』
『そんな素材を扱える鍛冶師がおれば、の話じゃがな』
「……。」
その配信を最後まで見た俺は、まだ知らない。
その老人が。
数年後、自分の人生を大きく変える恩師になることを。




