2-15:生還
救援部隊が到着したのは、それから一時間ほど後のことだった。
相馬からの緊急連絡を受け、地上で待機していた予備部隊が、大急ぎで駆けつけてくれたらしい。
「盾役の彼女は、担架でこのまま搬送する。天音さんも、一応検査を受けてもらう」
相馬の指示に、皆が頷く。
「神崎、お前もだ」
「俺は平気です、切り傷くらいで」
「命令だ」
有無を言わさぬ声だった。
結局、大人しく従うことにした。
鬼の亡骸は、研究班の到着を待って、正式に回収されることになった。
巨大な体を前に、佐伯が興味深そうに唸る。
「この皮、相当なもんじゃな。銃弾を弾くわけじゃ」
「素材として、使えそうですか」
「使えそうも何も」
佐伯は、真剣な顔で答えた。
「これだけの生物、まともに素材化できれば、とんでもない防具や武器になるじゃろうな」
その言葉に、少しだけ胸が高鳴る。
折れた刀を見る。
この鬼の何かと、組み合わせられたら。
新しい何かが、生まれるかもしれない。
「神崎さん」
天音が、担架に座ったまま、声をかけてきた。
「はい」
「ありがとうございました。庇ってくれて」
「いえ、あれは咄嗟に体が動いただけで」
「それでも、です」
まっすぐな目で、そう言われる。
なんだか、いたたまれなくなって、視線を逸らした。
「......体調は、大丈夫ですか」
「頭痛は、少し引きました。でも」
彼女は、少し言い淀んでから続けた。
「まだ、何かがおかしい感じがします。あの光の粒子に近づいてから、ずっと」
「おかしい、とは」
「うまく言えないんです。指先が、じんじんするような。何かが、体の中に残ってるような」
彼女の表情には、不安と、それとは違う何か――かすかな好奇心のようなものも、同時に浮かんでいた。
その正体を、この時はまだ、誰も知らなかった。
全員が地上に戻ったのは、日が変わる直前だった。
配信は、地上に出た時点で、一旦終了とした。
『無事でよかった......本当によかった』
『刀オタクさん、ありがとう』
『政府もこの配信、ちゃんと分析してくれよ、頼むから』
最後まで残っていた視聴者たちの言葉に、目頭が熱くなる。
配信終了ボタンを押す指が、少しだけ震えた。
控室に戻ると、南一颯と黒沢玲が待っていた。
「お疲れ様でした」
南が、労うように言う。
「映像、リアルタイムで見させてもらいました。あの状況判断、正直、驚きました」
「......ありがとうございます」
「あの鬼の存在、そして、あの光る粒子。おそらく、今回の出現率上昇の直接的な原因です」
黒沢が、真剣な顔で続けた。
「詳細な分析は、これからになりますが。あの粒子は、これまで観測されてこなかった、未知のエネルギーの可能性が高い」
「未知のエネルギー......」
天音の様子を思い出す。
彼女が感じていた違和感。
あれも、その粒子と、何か関係があるのだろうか。
「今回の件は、国としても、重点的に調査を進める案件になるでしょう」
南の言葉に、九条の顔がふと浮かぶ。
この報告を聞いた時、あの人は、どんな判断を下すのだろう。
「神崎さん」
佐伯が、そっと肩を叩いた。
「よう、やり切った」
「師匠......」
「悔しいじゃろう、刀のことは」
折れた刀身を、そっと見る。
赤みを帯びた断面が、まだ、静かに輝いていた。
「悔しいです。でも」
小さく笑う。
「これはこれで、新しい一振りへの、始まりな気がします」
佐伯が、驚いたように目を見開き、それから、満足そうに笑った。
「ええ顔しとるな」
「そうですか」
「うむ。次に何を打つか、わしも楽しみじゃ」
窓の外、夜明けが近づいていた。
新しい一日と共に、新しい謎と、新しい一振りへの道が、静かに始まろうとしていた。




