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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第二章:スタンビート
54/115

2-13:鬼

地響きと共に、影がその全貌を現した。


赤黒い肌。


額から突き出した、二本の太い角。


右手には、岩塊をそのまま握り固めたような、巨大な棍棒。


「......鬼、か。」


誰かが、思わず呟いた言葉が、そのまま呼び名になった。


「相馬さん、指示を」


「盾役は前へ。射線を確保する。神崎と佐伯さんは、後方支援に回れ」


短く、的確な指示。


大柄な女性――盾役の探索者が、巨大な盾を構えて前に出る。


「来るぞ!」


鬼が、咆哮と共に棍棒を振り下ろした。


盾がそれを受け止める。


......はずだった。


「――っ!?」


轟音と共に、盾ごと女性の体が吹き飛んだ。


壁に叩きつけられ、動かなくなる。


「くそっ!」


相馬が、即座に銃を構え、連射する。


弾丸が、鬼の体に着弾する。


だが。


「......弾かれてる、だと」


硬い皮膚の表面で、弾丸が火花を散らして逸れていく。


まるで、装甲を撃っているようだった。


『な、なんだよあれ、銃効いてないじゃん』


『やばい、やばいって』


『助けてくれ、頼むから誰か助けてくれ』


コメント欄が、悲鳴に近い勢いで流れていく。


「相馬さん、後退を」


天音が、青ざめた顔で叫ぶ。


「まだだ! あの盾役を、見捨てるわけにはいかん!」


相馬が、腰の刀を抜き放ち、正面から斬りかかる。


刃が、鬼の腕を捉える。


浅く、切れる。


だが、致命傷には程遠かった。


「......硬すぎる」


「相馬さん、危ない!」


振り下ろされる棍棒を、辛うじて回避する。


地面が、衝撃で大きく抉れた。


「くっ......!」


着地に失敗し、相馬が体勢を崩す。


「師匠!」


「わしより、天音さんを見ろ! まだ本調子じゃない!」


振り返ると、天音が地面に膝をついていた。


「天音さん!」


「......大丈夫、です。ただ、頭が――」


言葉の途中で、彼女の体が大きく傾ぐ。


「っ!」


咄嗟に支える。


その隙に、鬼の視線が、動きの鈍った天音へと向いた。


「まずい......!」


鬼が、棍棒を振り上げる。


誰も、間に合わない。


相馬は体勢を崩したまま。


佐伯は距離がある。


殿の男性も、負傷した盾役の手当てで動けない。


「......っ!」


考えるより先に、体が動いた。


天音を庇うように、前へ出る。


刀を抜く。


最初に打った、あの一振り。


振り下ろされる棍棒に、真正面から刃を合わせた。


衝撃が、腕全体に走る。


骨が軋むような痛み。


だが、刃は、折れなかった。


「......まだ、いける」


押し返す力に、負けじと踏ん張る。


「神崎!?」


相馬の驚いた声が、遠くに聞こえた。


鬼の赤い瞳が、初めて、はっきりとこちらを捉える。


『え、待って、あの人一人で受け止めてないか?』


『うそだろ、押し返してるぞ』


『刀オタクさん頑張れ......!』


コメント欄の色が、少しだけ変わっていた。


悲鳴だけではなく、祈るような言葉が、混じり始めている。


「天音さん、後ろに下がってください」


「でも――」


「大丈夫です。少し、時間を稼ぎます」


鬼の全身を、じっと観察する。


棍棒を握る、太い腕。


硬く盛り上がった、装甲のような皮膚。


だが。


(関節部分だけ、皮膚が薄い)


鉱石の断面を見る時と、同じ感覚だった。


構造を読む。


強度の差を見極める。


弱点は、確かにそこにあった。


「......よし。」


小さく息を吐き、刀を握り直す。


まだ、勝機はある。


だが、次の一手を誤れば、それで終わりだった。


鬼が、再び棍棒を振り上げる。


空気が、びりびりと震えるほどの、圧倒的な威圧感。


自分は、それでも、刀を構え続けた。


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