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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第二章:スタンビート
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2-12:八層より深く

『――というわけで、これより調査団は、八層への突入を開始します』


自分の声が、いつもより硬いのが分かる。


配信画面の視聴者数は、既に十万を超えていた。


いつもの鍛冶配信では、絶対にありえない数字。


『刀オタクさん、めちゃくちゃ緊張してる』


『分かる、いつもの早口が来ない』


コメント欄の反応にすら、余裕を持って笑えない。


「神崎、喋りながらでも、足元だけは疎かにするなよ」


相馬が、前方を警戒しながら声をかけてくる。


「はい」


「配信は大事な仕事だが、優先順位は間違えるな。命が一番だ」


その一言に、背筋が伸びる。


六人一列。


相馬を先頭に、天音、大柄な盾役の女性、佐伯、自分、殿はもう一人の男性という並びで、通路を進んでいく。


八層。


これまで潜ったことのない深さだった。


壁の苔が、以前見た層より、明らかに濃い緑色をしている。


「......空気、重くないですか」


天音が、ぽつりと呟いた。


「重い?」


「霧じゃないのに、視界がわずかに滲む感じがします。うまく言えないんですけど」


言われてみれば、確かに違和感がある。


肌に、じわりと張り付くような感触。


温度でも湿度でもない、何か別のもの。


「気のせいじゃないな」


相馬が、足を止める。


「計器の反応も、通常より高い数値を示している」


腰の機器を確認しながら言う。


「これが、出現率上昇の原因と関係しているかもしれない」


『さっきから空気重いって話出てるけど、何のことだ?』


『視聴者にはただの通路にしか見えん』


『これ探索者側の感覚なのか』


コメントを横目に見ながら、天音の様子を窺う。


彼女の眉間に、うっすらと汗が浮いていた。


「天音さん、大丈夫ですか」


「......はい、大丈夫です。ただ」


「ただ?」


「頭の奥が、少しだけ痺れるような感覚があって」


その言葉に、相馬が振り返った。


「無理はするな。少しでも異常を感じたら、すぐに申告しろ」


「はい......すみません」


九層に差し掛かる頃、異変は、誰の目にも明らかになった。


「......これは。」


通路の先、広間になった空間。


壁一面が、淡く発光していた。


これまで見てきた、単なる鉱石の光とは違う。


空気そのものが、うっすらと、光の粒子を帯びているように見えた。


『は?空気光ってね?』


『これCGじゃなくてマジ映像?』


『やば、これ生放送だよな?』


コメント欄が、一気に加速する。


「相馬さん」


「見えている。全員、警戒レベルを上げろ」


佐伯が、光る粒子に手をかざす。


「......熱くはないな」


「未知のエネルギー、でしょうか」


「かもしれん。だが、正体不明のものに、迂闊に触れるのはよせ」


その時。


「......っ」


天音が、突然、頭を押さえてよろめいた。


「天音さん!?」


咄嗟に、体を支える。


「......大丈夫、です。ただ、急に――」


彼女の声が、途中で止まった。


視線の先。


広間の奥、光の粒子が特に濃く漂う一角から。


地響きのような、重い足音が聞こえてきた。


「全員、構えろ」


相馬の声が、鋭くなる。


闇の奥から、ゆっくりと、巨大な影が姿を現す。


人型に近い、しかし、明らかに人ではない輪郭。


全長は、優に三メートルを超えていた。


赤く濁った瞳が、こちらを捉える。


『な、なんだあれ......』


『デカすぎるだろ』


『これマジで生中継か......?』


コメント欄が、静まり返る。


誰もが、固唾を呑んで画面を見つめているのが、こちらにも伝わってくるようだった。


自分は、静かに刀の柄に手をかけた。


これまで感じたことのない、強い緊張。


だが、不思議と、恐怖よりも、確かな高揚があった。


「......来る。」


その一言と共に、影が、こちらへ向かって動き出した。


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