表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第二章:スタンビート
52/94

2-11:調査団、集結

指定された施設は、封鎖区域のすぐ外に設営された、簡易の前線基地だった。


案内された会議室に入ると、既に何人かが席についていた。


「師匠」


「おう」


佐伯が、軽く手を挙げる。


「思ったより早かったな」


「緊張して早めに家出ました」


「素直なやつじゃ」


部屋を見渡す。


自分と佐伯を含めて、集まったのは六人だった。


迷彩服に近い活動服を着た、いかにも歴戦といった雰囲気の中年の男性。


寡黙そうな、大柄な女性。


そして――


「......あ。」


入り口近くの席に、一人の女性が座っていた。


黒に近い紺色の髪を、一つに束ねている。


腰には、細身の片手剣。


こちらの視線に気づいたのか、まっすぐに見返してきた。


「初めまして。天音澪です」


落ち着いた声だった。


「あ、神崎です。神崎錬司」


「知ってます。刀オタクさんですよね」


「......二つ名、そっちで呼ぶんですね」


「本名より馴染みがあるので」


あっさり言われて、思わず苦笑する。


資料によれば、天音もCランク。


自分と、同じ階級だった。


「天音さんは、探索者としては何が専門なんですか」


「索敵と、危険察知です」


「索敵......」


「勘がいいだけとも言いますけど」


軽く笑いながら、彼女は続けた。


「同じ階層でも、他の人が気づかないような違和感に、先に気づくことが多くて」


「......それ、便利ですね」


「便利、というより。少し変わってる、とはよく言われます」


天音は、少しだけ視線を落とす。


「最近、それが余計に強くなってる気がして。今回の調査、正直、自分でも気になってたんです」


その言葉に、なんとなく引っかかるものを感じた。


だが、それが何なのか、この時はまだ分からなかった。


「では、時間になりましたので」


資料を持った職員が入ってくる。


「本日の調査メンバーをご紹介します」


改めて、六人が名乗り合う。


迷彩服の男性は、自衛隊所属の探索者、Bランクの相馬。


今回の調査団のリーダーを任されているらしい。


「民間の皆さんには、危険な役目を任せることになる。何かあれば、遠慮なく俺を頼ってくれ」


落ち着いた、頼りになりそうな声だった。


大柄な女性は、盾役として名の知れたDランクの探索者。


天音と自分は、Cランクの索敵役と鍛冶師枠。


佐伯は、Cランクながら経験の豊富さを買われての参加らしい。


「若いのばっかりじゃな」


佐伯が、苦笑しながら呟く。


「相馬さん以外は、ほとんどCかDランクですね」


「じゃからこそ、無理はできんちゅうことじゃろ」


実際、資料にもそう記されていた。


深部での本格的な戦闘要員としてではなく、あくまで機動力を重視した、偵察寄りの編成。


主戦力は相馬一人で、他は補助と情報収集が主任務、という位置づけだった。


「今回の調査目的は、八層から十層にかけての、生物出現率上昇の原因究明です」


職員が、モニターに資料を映す。


「対象区域は、未探索の空洞と見られる箇所を中心とします。危険を感じた場合は、いかなる状況でも即時撤退を最優先としてください」


全員が頷く。


「なお、今回の調査は、安全確認を兼ねて、神崎様の配信チャンネルを通じて、一般公開の形で中継されます」


「......え、俺のチャンネルで、しかも一般公開ですか」


「はい。国民の皆様に、探索者制度の実情と透明性をお示しする目的も兼ねております。もちろん、視聴者の状況把握がリアルタイムで行えることも、緊急時対応の迅速化に繋がります」


つまり、いつもの数百人程度の視聴者どころではない。


国中の人間が、この配信を見る可能性がある、ということだった。


「......責任重大ですね」


「不安ですか」


思わず、隣の天音を見る。


「......大丈夫ですか、全国に配信されるの」


「別に。むしろ、証拠が残るのはいいことだと思います」


さらりと言われて、少し安心した。


「あと」


職員が付け加える。


「万が一のことも考慮し、後方には医療班と、南様、黒沢様による支援体制も整えております」


「あの二人が」


「専門的な観点からの助言を、随時受けられる体制です」


顔ぶれの豪華さに、改めて事の大きさを実感する。


単なる調査ではない。


この国が、本気で挑む、未知への一歩だった。


「準備が整い次第、出発とします。各自、装備の最終確認を」


会議が終わり、皆が席を立つ。


「神崎さん」


天音に、声をかけられた。


「はい」


「あなたの刀、見せてもらってもいいですか」


少し驚きながら、腰の一振りを差し出す。


最初に打った、あの刀だった。


天音は、しばらく刃を見つめてから、小さく呟いた。


「......変な感じがします」


「変な、とは」


「うまく言えないんですけど。他の武器とは、纏ってる空気が違う気がして」


それは、彼女の言う「勘」の一種なのだろうか。


「気のせいかもしれません。忘れてください」


「いえ、気になります」


「私も、まだよく分からないので」


天音は、小さく微笑んだ。


その笑顔に、なぜか少しだけ、胸の奥がざわついた。


「......よろしくお願いします、神崎さん」


「はい、よろしくお願いします」


握手を交わす。


思ったより、しっかりとした手だった。


窓の外、あの門が見える。


まだ知らない、深い階層への扉。


新しい仲間たちと共に、その先へ向かう時が、もうすぐそこまで来ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ