2-11:調査団、集結
指定された施設は、封鎖区域のすぐ外に設営された、簡易の前線基地だった。
案内された会議室に入ると、既に何人かが席についていた。
「師匠」
「おう」
佐伯が、軽く手を挙げる。
「思ったより早かったな」
「緊張して早めに家出ました」
「素直なやつじゃ」
部屋を見渡す。
自分と佐伯を含めて、集まったのは六人だった。
迷彩服に近い活動服を着た、いかにも歴戦といった雰囲気の中年の男性。
寡黙そうな、大柄な女性。
そして――
「......あ。」
入り口近くの席に、一人の女性が座っていた。
黒に近い紺色の髪を、一つに束ねている。
腰には、細身の片手剣。
こちらの視線に気づいたのか、まっすぐに見返してきた。
「初めまして。天音澪です」
落ち着いた声だった。
「あ、神崎です。神崎錬司」
「知ってます。刀オタクさんですよね」
「......二つ名、そっちで呼ぶんですね」
「本名より馴染みがあるので」
あっさり言われて、思わず苦笑する。
資料によれば、天音もCランク。
自分と、同じ階級だった。
「天音さんは、探索者としては何が専門なんですか」
「索敵と、危険察知です」
「索敵......」
「勘がいいだけとも言いますけど」
軽く笑いながら、彼女は続けた。
「同じ階層でも、他の人が気づかないような違和感に、先に気づくことが多くて」
「......それ、便利ですね」
「便利、というより。少し変わってる、とはよく言われます」
天音は、少しだけ視線を落とす。
「最近、それが余計に強くなってる気がして。今回の調査、正直、自分でも気になってたんです」
その言葉に、なんとなく引っかかるものを感じた。
だが、それが何なのか、この時はまだ分からなかった。
「では、時間になりましたので」
資料を持った職員が入ってくる。
「本日の調査メンバーをご紹介します」
改めて、六人が名乗り合う。
迷彩服の男性は、自衛隊所属の探索者、Bランクの相馬。
今回の調査団のリーダーを任されているらしい。
「民間の皆さんには、危険な役目を任せることになる。何かあれば、遠慮なく俺を頼ってくれ」
落ち着いた、頼りになりそうな声だった。
大柄な女性は、盾役として名の知れたDランクの探索者。
天音と自分は、Cランクの索敵役と鍛冶師枠。
佐伯は、Cランクながら経験の豊富さを買われての参加らしい。
「若いのばっかりじゃな」
佐伯が、苦笑しながら呟く。
「相馬さん以外は、ほとんどCかDランクですね」
「じゃからこそ、無理はできんちゅうことじゃろ」
実際、資料にもそう記されていた。
深部での本格的な戦闘要員としてではなく、あくまで機動力を重視した、偵察寄りの編成。
主戦力は相馬一人で、他は補助と情報収集が主任務、という位置づけだった。
「今回の調査目的は、八層から十層にかけての、生物出現率上昇の原因究明です」
職員が、モニターに資料を映す。
「対象区域は、未探索の空洞と見られる箇所を中心とします。危険を感じた場合は、いかなる状況でも即時撤退を最優先としてください」
全員が頷く。
「なお、今回の調査は、安全確認を兼ねて、神崎様の配信チャンネルを通じて、一般公開の形で中継されます」
「......え、俺のチャンネルで、しかも一般公開ですか」
「はい。国民の皆様に、探索者制度の実情と透明性をお示しする目的も兼ねております。もちろん、視聴者の状況把握がリアルタイムで行えることも、緊急時対応の迅速化に繋がります」
つまり、いつもの数百人程度の視聴者どころではない。
国中の人間が、この配信を見る可能性がある、ということだった。
「......責任重大ですね」
「不安ですか」
思わず、隣の天音を見る。
「......大丈夫ですか、全国に配信されるの」
「別に。むしろ、証拠が残るのはいいことだと思います」
さらりと言われて、少し安心した。
「あと」
職員が付け加える。
「万が一のことも考慮し、後方には医療班と、南様、黒沢様による支援体制も整えております」
「あの二人が」
「専門的な観点からの助言を、随時受けられる体制です」
顔ぶれの豪華さに、改めて事の大きさを実感する。
単なる調査ではない。
この国が、本気で挑む、未知への一歩だった。
「準備が整い次第、出発とします。各自、装備の最終確認を」
会議が終わり、皆が席を立つ。
「神崎さん」
天音に、声をかけられた。
「はい」
「あなたの刀、見せてもらってもいいですか」
少し驚きながら、腰の一振りを差し出す。
最初に打った、あの刀だった。
天音は、しばらく刃を見つめてから、小さく呟いた。
「......変な感じがします」
「変な、とは」
「うまく言えないんですけど。他の武器とは、纏ってる空気が違う気がして」
それは、彼女の言う「勘」の一種なのだろうか。
「気のせいかもしれません。忘れてください」
「いえ、気になります」
「私も、まだよく分からないので」
天音は、小さく微笑んだ。
その笑顔に、なぜか少しだけ、胸の奥がざわついた。
「......よろしくお願いします、神崎さん」
「はい、よろしくお願いします」
握手を交わす。
思ったより、しっかりとした手だった。
窓の外、あの門が見える。
まだ知らない、深い階層への扉。
新しい仲間たちと共に、その先へ向かう時が、もうすぐそこまで来ていた。




