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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第二章:スタンビート
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2-10:協力要請

その電話がかかってきたのは、配信を終えた直後だった。


見慣れない番号。


一瞬迷ったが、出てみる。


「はい、神崎です」


『夜分に失礼いたします。内閣府、探索者制度事務局の者です』


声のトーンから、事務的な連絡ではないことがすぐに分かった。


「......何かありましたか」


『実は、正式なご協力の要請がございまして。お時間よろしいでしょうか』


「大丈夫です」


姿勢を正す。


電話越しに、担当者が丁寧に説明を始めた。


ここ二週間で、複数の階層における生物の出現率が、無視できない水準まで上昇していること。


専門家の間で、大規模な異変の予兆である可能性が議論されていること。


原因究明のため、少人数による偵察調査を行う方針が固まったこと。


そして。


『その調査団の一員として、神崎様にご協力をお願いしたいと考えております』


「......俺、ですか」


『はい。これまでの実績と、実際の戦闘能力についての評価を踏まえての依頼です』


思わず、言葉に詰まった。


自分の戦闘能力が、そんな風に評価されているとは、あまり実感がなかった。


いつも、素材のことしか考えていなかったから。


「危険性は」


『正直にお伝えします。未確認区画への調査であり、通常の探索とは、リスクの度合いが異なります』


率直な返答だった。


誤魔化さない姿勢に、かえって信頼感が増す。


『あくまで任意のご協力です。もちろん、お断りいただいても構いません』


「......少し、考えさせてもらえますか」


『もちろんです。三日以内にご返答いただければ』


電話を切った後、しばらく、ベッドに座ったまま動けなかった。


危険な調査。


国からの、正式な依頼。


断る理由は、いくらでも作れる。


まだ学生だ。


命の保証はない。


でも。


「......行くしかないよな。」


迷いは、意外なほど少なかった。


自分の実力を、国が必要としてくれている。


それに、あの九条という総理の顔を思い出す。


あの人が動かしてきたこの国の仕組みが、今、危機に直面しているかもしれない。


なら、自分にできることをやりたい。


その気持ちの方が、恐怖より強かった。


翌日、正式な資料が送られてきた。


目を通していくと、一つの条件が目に留まった。


**なお、本調査については、安全確認の観点から、可能な範囲での配信中継を実施していただきたく存じます。**


**参加者の状況をリアルタイムで把握することで、緊急時対応の迅速化を図る目的です。**


「......配信、しながら潜るのか。」


少し驚いたが、理由を聞けば納得できた。


現場の状況を、リアルタイムで監視室が把握できる。


何かあった時、対応が早くなる。


合理的な判断だった。


同時に、少しだけ、複雑な気持ちにもなる。


いつもの、素材の解説をしながらの、のんびりした配信とは訳が違う。


命に関わる現場を、リアルタイムで発信することになる。


佐伯に電話をかけ、事情を話した。


『......なるほどな』


「師匠なら、どうしますか」


『わしも誘われとる』


「え」


『同世代の探索者からも、何人か声がかかったらしい。わしも候補の一人らしくてな』


「師匠も一緒に潜れるってことですか」


『そうなるじゃろうな』


少しだけ、安心した。


一人ではない。


『配信については、思うようにやれ。お主のやり方でいい』


「はい」


『ただし』


佐伯の声が、真剣なものに変わる。


『視聴者に無理して格好つける必要はない。危険を感じたら、迷わず引け。それが、一番大事なことじゃ』


「......分かりました」


電話を切り、資料に改めて目を通す。


これまでの配信とは違う。


だが、根っこにあるものは、同じだった。


自分が見て、知って、感じたことを、誰かに伝える。


それを、命懸けの現場でもやり通す。


「......よし。」


資料の最後、承諾欄に、名前を書き込む。


**神崎錬司**


ペンを置く。


窓の外、夜空を見上げる。


新しい局面が、静かに、確実に近づいてきていた。


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