2-4:広報依頼
配信を始めて、三週間が経った。
登録者数は、気づけば一万人を超えていた。
「......いや、伸びすぎだろ」
配信後の集計画面を見ながら、思わず声が漏れる。
毎回、素材の解説をしながら鉄を打つだけの、地味な配信のはずだった。
なのに、切り抜き動画がSNSで拡散され、そこから新規の視聴者がどんどん流れ込んでくる。
スマホが震える。
見慣れないメールアドレスからの通知だった。
神崎錬司様
内閣府広報室でございます。
日頃より、探索者制度の周知にご協力いただき、誠にありがとうございます。
この度、政府主催の広報企画『探索者たちの挑戦』への出演を、正式に依頼させていただきたく存じます。
「......え。」
二度読む。
見間違いじゃない。
内閣府。
広報室。
正式な依頼。
「......いや、待て待て。」
落ち着け。
深呼吸。
これまでも、政府から連絡が来たことはあった。
でも、それはあくまで事務局からの、事務的な確認メールばかりだった。
今回は、明らかに毛色が違う。
すぐに、佐伯へ電話をかけた。
「師匠、大変です」
『どうした』
「内閣府から、正式な広報出演の依頼が来ました」
少しの沈黙。
『......ほう』
電話越しでも、佐伯が驚いているのが分かった。
「どうしましょう」
『どうもこうも、受けるかどうかは、お主が決めることじゃろ』
「それはそうですけど」
『不安か』
「不安っていうか......実感が湧かないっていうか」
半年前まで、ただの刀オタクの大学生だった。
それが今、国の広報企画に呼ばれる立場になっている。
その落差に、頭がついていかない。
『錬司』
「はい」
『お主がここまで来たのは、運じゃない。積み重ねた結果じゃ』
佐伯の声は、いつもより真剣だった。
『自信を持って、受けてこい』
「......はい」
電話を切った後、しばらくベッドに寝転がって、天井を見上げていた。
思い返せば、始まりはいつも小さかった。
映像を見て、素材について考察した投稿。
尊敬する配信者からの、たった一言の返信。
研究者からの、手のひらほどの鉱石。
師匠との、初めての槌。
その一つ一つが、今に繋がっている。
「......よし。」
起き上がって、スマホを手に取る。
返信を打つ。
内閣府広報室 ご担当者様
この度は貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。
謹んでお受けいたします。
何卒よろしくお願いいたします。
送信ボタンを押す。
既読はすぐについた。
数分後、丁寧な返信と共に、撮影日程の候補が送られてきた。
その中の一文に、目が留まる。
なお、当企画の一環として、内閣府主催の懇談会が予定されており、他分野の有識者委員の皆様との交流機会も含まれます。
「......有識者委員?」
もしかして。
あの、意見交換会に自分の考察を紹介してくれた師匠経由の、あの流れの先に。
もっと大きな人たちが、待っているのかもしれない。
少しだけ、胸が高鳴った。
怖さより、期待の方が大きかった。
「......面白くなってきたな。」
窓の外、夜空を見上げる。
まだ始まったばかりの物語が、また一つ、新しい扉を開こうとしていた。




