2-1:刀オタク、Cランクになる
「――というわけで、また新しい刀ができた」
工房の作業台に、布に包まれた刀身を置く。
佐伯が、興味深そうに覗き込んできた。
「今回はどの階層の素材じゃ」
「十二層です。師匠が『そろそろ深く潜っても大丈夫じゃろ』って言ったところ」
「言ったな、確かに」
一般開放から、もう四ヶ月が経っていた。
あの頃はE ランクの新米だった自分も、今では立派に潜れる資格を持っている。
......立派、かどうかは、周りの評価次第だが。
「開けてみい」
布を解く。
刃文の中に、淡い緑の輝きが揺れる刀身が現れた。
十二層で採れた、粘性を持つ緑色の鉱石を、玉鋼と鍛え合わせた一振り。
これで、通算七本目になる。
「......悪くない。むしろ良い出来じゃ」
佐伯が、刀身を光にかざしながら唸る。
「弾力の出方が、前より安定しとる」
「毎回、素材の癖が全然違うので、まだ手探りですけどね」
最初の一振りから、四ヶ月。
思えば、色々な素材を試してきた。
硬いだけの鉱石。
粘りだけの鉱石。
熱するとやたら青く発光する鉱石。
どれも、地球の金属知識だけでは太刀打ちできない、未知づくしの相手だった。
それでも、少しずつ、扱い方が分かってきている。
「そういえば」
佐伯が、思い出したように言う。
「お主、ランク上がったんじゃろ」
「あ、はい。先週、正式に」
E からD 、D からC 。
着実に、階段を上ってきた。
そして先週、ついにC ランクへの昇格試験に合格した。
「......これ、実は結構早いらしいです」
「早い?」
「事務局の人に言われました。『これほどの短期間でCまで到達した例は、記録上ほとんどありません』って」
「ほう」
佐伯が、面白そうに笑う。
「まぁ、お主の潜り方見とったら、驚きはせんがな」
実際、自覚はある。
浅い階層でも、誰よりも丁寧に素材を観察する。
誰よりも長く、鉱石の性質を試す。
戦闘そのものより、鉱脈や生物の落とし物のほうに、目が輝いてしまう。
「あと、これも聞いたんですけど」
「なんじゃ」
「界隈で、二つ名がついてるらしいです」
「二つ名?」
スマホを取り出し、探索者向けの掲示板アプリを開く。
『あの刀狂、また変な素材持って帰ってきたらしい』
『刀オタクさん、今回も戦闘そっちのけで鉱石観察してたって』
「......刀狂、刀オタク。」
「似合っとるな」
「褒めてます?」
「褒めとる」
佐伯は、けらけらと笑った。
否定できないのが、また悔しい。
実際、討伐対象の生物より、素材の断面や質感の方が気になって仕方ない。
パーティを組んでいる探索者たちにも、何度も呆れられてきた。
「それより」
佐伯が、真剣な顔に戻る。
「Cランクになったっちゅうことは」
「はい」
「配信、始められるようになったな」
「......あ。」
言われて、思い出した。
探索者の配信は、資格の悪用や無謀な突撃を防ぐため、C ランク以上でなければ許可されない。
それが、政府の定めたルールだった。
自分は今まで、その資格の外側にいた。
「師匠の背中を見て育った身としては、避けて通れない話ですよね」
「わしのことは関係なかろう」
「大ありです」
あの日、あの配信を見なければ、今の自分はいない。
鍛冶師配信者としての佐伯の存在が、全ての始まりだった。
「それに、事務局からも連絡が来てて」
スマホの通知を見せる。
**神崎錬司様**
**このたびのC級資格取得、誠におめでとうございます。**
**史上最速記録の一つとして、広報活動へのご協力をお願いできればと存じます。**
「......広報活動?」
「多分、インタビューとか、そういうのだと思います」
「政府に目をつけられたな」
「目をつけられたは人聞き悪いですよ」
それでも、少し誇らしい気持ちはあった。
まだ一介の大学生だと思っていた自分の名前が、こうして正式な場所にまで届いている。
「で、どうするんじゃ」
「配信、ですか?」
「うむ」
少し、考える。
迷う理由は、あまりなかった。
好きなものについて、好きなだけ語れる場所。
鍛冶の過程を、誰かに見てもらえる機会。
それはずっと、ひそかに憧れてきたことでもあった。
「やってみます」
迷いのない声で答える。
「戦闘配信じゃなくて」
佐伯を、まっすぐ見る。
「師匠と同じ、鍛冶配信者として」
佐伯は、少しだけ驚いた顔をしてから、ゆっくりと頷いた。
「よかろう。存分にやれ」
「はい」
その日の夜。
自室のノートパソコンを開き、配信用アカウントの申請フォームに、名前を打ち込む。
**神崎錬司**
しばらく手が止まる。
これから、この名前は、もっと多くの人に知られていくことになるのだろうか。
「......いや、考えすぎか」
小さく笑って、送信ボタンを押す。
まだ、始まったばかりだ。
でも、確かな一歩だった。




